| 人事・労務の仕事を担当するスタッフに、わが国の労働法制の現状と将来の方向を十分に理解したうえで、実務上の問題処理をしてほしいという願いをこめて、本書を執筆しました。
従来、人事部所属のスタッフの主たる任務は、企業内の労使紛争を解決することにありました。その任務は今後も継続すると思いますが、これからは「新たな働くシステム」を構想するというクリエイティブな仕事もこなしていける能力が求められるようになってきています。企業内労使紛争に関する個別的な解決が、将来の企業システムを視野に入れたものになっているかどうかという思考が期待されているわけです。
わが国の労働法制は、団体交渉を主体にした労使による自主的な労働条件決定システムをバックアップするという仕組みによって成り立っています。ところが団体交渉の一方の当事者である労働組合の労働条件決定機能が十分に働かなくなってきています。私の意見としては、成熟した経済社会においては、「経営と労働」が互いに切瑳し、協調しながら社会の安定化を図っていくべきだと考えています。したがって、わが国の労働者組織のあり方を検討することが喫緊の課題になっていると認識しています。
このような状況も反映して、労働組合が介在する団体的労使紛争が減少していますが、他方で、個別的労使紛争が増加しています。そこで、人事部のなかでは労務スタッフよりも人事スタッフの役割が重要になってきています。また、人事部の抜本的な組織改革をすすめている企業が生まれています。同時に、個別的労使紛争を解決できるだけの正確な労働法の知識を備え、しかも公正な判断ができる人事スタッフが渇望されています。裁判所の「労働民事調停」、都道府県労働局の「個別労使紛争調整委員会」、労働委員会による「個別的労使紛争」処理の管轄権など、幾つかの公的な個別的労使紛争解
決機関の改革案が計画されており、各企業にとっては企業内部の紛争処理機能の充実を図る必要性に迫られているからです。
本書は、研究書ではなく実務書です。本書の特色の第1は、労働法規の解釈あるいは紛争に対する解答について、「どうしてそうなるのか」という筋道を示そうと試みていることです。○×式の解答能力ではなく、さまざまな紛争解決のための応用力が身に着くことを願っています。第2は、目の前の紛争解決だけに満足しないで、今後の企業システムの改善を図るという姿勢に刺激を与えようと試みていることです。第3は、図と表をたくさん作成したことです。全体像を把握したうえで個々の知識の位置付けと整理に役立ててもらうためです。
|