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労務事情 人事労務相談室
(労働法)マイカー通勤のルール違反に対する罰則
Q 当事業所ではマイカー通勤を認め、マイカー通勤者には、通勤距離に応じてガソリン代相当の通勤手当(通勤距離2〜5km未満月2,000円、5〜10km未満月4,000円、以下略) を支給しています。先日、安全衛生委員会で、マイカー通勤のルール違反に対して罰則を科すことが議論されました。たとえば、シートベルトの不着用(道路交通法違反)や、会社駐車場内でのマイカー通勤許可証の不提示が3回連続の場合は5日間のマイカー通勤を禁止するなどです(なお、マイカー通勤禁止中の通勤費<バス代等>は自己負担とし、月々の通勤手当は罰則に関係なく支給します)。
そこでお尋ねしたいのですが、
1.会社が、マイカー通勤のルール違反に対して罰則を科すことは可能でしょうか。もし罰則を科すことや、5日間のマイカー通勤禁止の罰則に反対という社員は、マイカー通勤を止めて公的交通機関を使って通勤すれば問題ないと思いますがいかがでしょう。
2.1で罰則を科すことが可能としたら、5日間のマイカー通勤禁止という罰則は適切でしょうか。5日間のマイカー通勤禁止に伴いバスを利用した場合の通勤費は、通勤距離によっても違いますが、最低4,000円〜最高7,500円の自己負担となります。
3.こうした罰則は、就業規則の懲戒処分の一種として、労基法の何らかの制約を受けるのでしょうか。
 1. マイカー通勤の問題点

地方の会社であればマイカー通勤を認めているところも多いと思いますが、東京、大阪などの大都市圏にある会社では、敷地が広く駐車場に余裕のある場合は別として、マイカー通勤を禁止しているところが多いと思われます。その禁止の理由は、駐車するスペースがないとか、駐車場を借りる場合は多額の費用を要するとか、マイカー通勤は交通ラッシュに巻き込まれると通勤に長時間を要するとか、マイカー通勤は交通事故に遭う可能性が高く、その場合は貴重な従業員を失うことになりかねず、会社にとっても大きな損失を受けるとか、また、従業員が加害者であれば、事故の責任が従業員はもちろんのこと、会社にも及ぶことになりかねないとかがあげられます。

従業員から見れば、どのような方法で通勤しようとも、通勤方法も通勤ルートも自由であり、それを会社が規制するのはおかしいという意見も考えられます。確かに、通勤時間は使用者である会社の支配管理外であり、それを会社が規制するのはおかしいという議論が出るのも当然なことですが、まったく無関係とは言い切れません。一般に、企業では通勤手当や通勤費を支給していますので、どのような手段でどのようなルートで通勤するのかは大きく関係します。特に、マイカー通勤の場合に通勤手当等をいくら支給するかが問題となり、ガソリン代、駐車場代などの実費弁償でいくのか、それとも他の計算方法を考えるのか等を決めなくてはなりません。

その他、会社が無関係ではいられない理由としては、従業員が被害者として交通事故に巻き込まれたり、逆に加害者として交通事故を引き起こした場合に、保険や賠償の問題が関係してきます。たとえば、従業員がマイカー通勤で他の自動車と衝突し大ケガをしたとしましょう。その場合、会社がその従業員を代行して通勤途上災害として労災保険の請求をすることが多いのですが、加害自動車は自賠責保険に加入しているはずですので、原則としてその自賠責保険を優先して適用するということになっており、いきなりの労災保険の請求は躊躇されます(どうしても先に労災保険の請求をする必要性があれば受理はされます)。また、マイカーとはいっても、その従業員がそのマイカーを普段から業務用に使用している場合には、従業員が加害者となった場合に、事故の被害者から、会社は使用者であるとして使用者責任(民法715条)を追及されるかもしれず、その請求が認められる可能性もあるのです。

このように、マイカー通勤などの通勤方法についても、これらとの兼ね合いで会社は関与せざるを得ず、種々の観点から合理的なルールを作ることが必要とされ、企業も多くはそのようなルールづくりを行っています。

 2. マイカー通勤のルール違反

マイカー通勤のための規則を設定して周知する以上は、その規則は有効であり、社内的には意味のある規則であると思います。通勤手当や社有車の利用方法等ともあわせて規定しておくのがよいと思います。

ところで、規則でそのマイカー通勤のルール違反に対して罰則を科す定めをすることができるかということですが、事案に相応した適切な罰則内容であれば可能といえます。ご質問では、一定期間のマイカー通勤の禁止(禁止期間中の公的交通機関を使った通勤費の不支給を伴う)ということですが、懲戒処分ではないにしても、マイカー通勤の許可要件の違反に対して、罰則として一定期間のマイカー通勤禁止をあげておくのは可能と考えます。

というのは、マイカー通勤を認めるか認めないかは基本的には会社の決定することであり、そうである以上は、その許可の要件も自由に決めてよいと考えられるからです。つまり、許可の要件を守れない場合には、その許可を取り消すことも可能である以上は、そこまで至らない違反に対して制裁的な措置も理論上は可能と思われるからです。もちろん、いかなる措置の定めも自由というわけではなく、マイカー通勤の許可という社内制度の趣旨に則った合理的な制裁措置は可能といえます。

 3. 不利益の程度
マイカー通勤の社内ルールに違反した場合に、5日間のマイカー通勤の禁止という措置は適切かということですが、これはマイカー通勤という便利さを奪うとともに、代わりに通勤費を自己負担しなければならないという経済的な不利益を与えるということになります。その経済的不利益は4,000円ないし7,500円かかるということですが、その金額は決して少ないわけではありません(ただし、マイカー通勤の場合はガソリン代相当の通勤手当が支払われているということですから、その不利益もある程度は補われていることになります)。

このような経済的な不利益を与えることが問題となるものとしては、労基法16条の違約金の定め、損害賠償額の予定の禁止に該当しないのかという点です。ただ、この場合には一定のルール違反をすれば一定の違約金を科すということではなく、金額はあらかじめ決まっていませんし、また、あくまで間接的に経済的に通勤費の負担をせざるを得ないということにすぎず、その意味では違約金の定め、損害賠償額の予定には該当しないといえます。

結局、ルール違反の程度とマイカー通勤禁止の期間の相当性ですが、シートベルトの不着用(道路交通法違反)とマイカー通勤許可証の不提示(3回連続)が5日間のマイカー通勤の禁止ということであり、前者のシートベルトの不着用については相当であると考えますが、マイカー通勤許可証の不提示(3回連続)で5日間のマイカー通勤の禁止というのはやや重すぎるような気がします。もちろん、このような取扱いは会社の裁量で考えてよく、著しく不相当でない限りは違法・無効になるわけではありませんから、相当の範囲内には入っていると考えます。

 4. 二重処分の問題
マイカー通勤者には、規則に基づきマイカー通勤不許可や一定期間のマイカー通勤の禁止措置を科し、さらに、社内の規則違反で懲戒処分をすることが二重処分になり許されないのではないかということも検討しなければなりません。

社内のマイカー通勤ルールが規則になっている場合には就業規則の一部と解することができるので、その違反をしたということで懲戒処分もあわせて可能といえます。その場合に、マイカー通勤の禁止と、たとえば譴責の懲戒処分とを科すことが二重処分の禁止に反しないかという問題がありますが、マイカー通勤の一定期間の禁止は懲戒処分ではなく、その利用を認めないということにすぎません(そもそも、だれでもがマイカー通勤を認められるわけではなく、一定の要件を満たした場合にのみマイカー通勤が認められるわけです)ので、二重処分の禁止にはあたりません。比喩的にいえば、マイカー通勤の一定期間禁止というのは行政処分、譴責の懲戒処分は刑罰という位置づけが可能であると考えます。

なお、懲戒処分は、この事案であれば、譴責・減給程度の比較的軽い処分であることが求められるでしょう。(弁護士 外井浩志)

労務事情 2007年11月15日号掲載

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