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賃金事情 統計用語の基礎知識
統計用語の基礎知識(4) 悉皆調査すべて正しい?

前回、そのデータにかかわる全員を調査する「悉皆調査」であれば、「完璧な」データが得られると申しました。原則としてそのとおりなのですが、今回はしかし、世の中で「悉皆調査」といわれているものすべてが厳密な意味で「正しい」のかどうかは、今一度疑ってみることも必要であるというお話です。

「悉皆調査」といえば、真っ先に「国勢調査」が頭に浮かぶ方も多いと思います。海外からの旅行者などを除き、わが国に居住する人すべてが調査の対象になります。人的な面で、わが国の「国のかたち」の基礎が浮き彫りになるものです。国勢調査では人々の労働状態が調査されていますので、その結果は、調査時点(最新は2005年10月。ただし、労働状態は前月9月の最後の1週間のもの)についての「完璧」なデータになっているはずです。
同様に、わが国の労働状態を毎月調査しているものに総務省統計局「労働力調査」があります。そこで、同じ月を対象にした調査結果を両者で比較した表を作成してみました(表)。「労働力調査」は「国勢調査」からのいわばサンプル調査であるともいえますので、両者に微妙な差があるのはむしろ当然のことです。とはいえ、完全失業率をみてみると、2000年については「それらしい」数値になっているのですが、2005年については「違い過ぎる」との印象が拭えない数値になっています(注)。

悉皆調査である「国勢調査」の失業率がサンプル調査である「労働力調査」のそれを上回っていることについては、制度上はともかく実際問題として、失業者のいる世帯をサンプル調査の対象とすることに困難な面があるのではないかなどの要因が考えられます。一方、今回の「国勢調査」では労働状態不詳(未回答)が多かったことがありますが、未回答世帯に就業者が多かったということもあるかもしれません。もしそうなら、未回答がある分、「国勢調査」の数値も幅をもってみる必要があるでしょう。

これらの要因のほかに、「完全失業者」をきちんと調査できているかどうかの問題もあるのではないかと考えられます。どちらの調査でも、「完全失業者」は、1.仕事を少しもしなかった、2.仕事を探していた、の2つに該当する答えをした人です。
いま、仕事を少ししている一方で仕事を探してもいた人が、「仕事を探していた」と回答した場合には、本来「就業者」であるのに「失業者」となってしまいます。
また、仕事をしたいとは思っており、気にはしていたが、具体的な求職活動はしていなかった人が「仕事を探していた」と回答した場合は、本来「非労働力人口」であるのに、同様に「失業者」となってしまいます。これらの定義や回答方法に対する理解は、どちらかといえばサンプル調査のほうが高くなると考えられます。
それやこれや考えてみますと、完全失業率については、2000年よりも2005年は失業情勢が悪化したことになる「国勢調査」の結果よりも、「労働力調査」のほうに軍配をあげたくなります。
表 「国勢調査」結果とそれに対する月の「労働力調査」結果の比較

表 「国勢調査」結果とそれに対する月の「労働力調査」結果の比較

少し飛躍しますが、統計学は遺伝法則や物理法則の実証など、自然を測定するところから発展してきました。
しかし、調査対象が主権者である「人」となったとき、それがそのまま当てはまるのかどうかは、常に疑っておく必要のあるテーマだと思っています。
(注)統計理論的に違うとまでいってよいかどうかは、筆者にとっては不明です。
(労働政策研究・研修機構 主席統括研究員 浅尾裕)

賃金事情 2007年12月20日号掲載
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