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賃金事情 統計用語の基礎知識
統計用語の基礎知識(3) 基本の中の基本「無作為抽出」

前回「毎勤」の指数が変更になる要因の1つとして、調査対象の抽出換えがあると紹介しました。今回は、その「抽出」について記憶に留めていただきたいことを簡単に解説しましょう。

たとえば平均賃金を知りたいときに、何千万人もいる雇用者全員を対象に調査(「悉皆調査」)を行えれば「完璧な」データが得られるでしょうが、膨大な手間と費用がかかります。そのため、一部の雇用者を取り出した調査(「抽出調査」/「標本(サンプル)調査」)の結果をもって全体のデータとみなすこととなります。その際、「抽出調査」の結果が、「悉皆調査」をしたならば得られたであろうデータと完璧ではないけれどもほとんど同一視できるためには、抽出された標本が全体(「母集団」)の的確なミニチュアになっていることが必要です。このことを保証するのが「無作為抽出」という抽出方法です。

たとえば、所定内給与額の分布は図のようになっています。これは、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の結果ですから、46,000事業所という膨大な調査回答数があるにせよ、この調査自体標本調査であります。が、これ以上精密な調査はありませんので、ここではこれが実態であると考えることとしましょう。そこでいま、たとえば調べやすいので大都市にある事業所だけを対象にして調査をすればどうでしょうか。その調査から得られるデータは、図にあるような分布に比べて賃金の高いほうの人が多い分布に、多分なると考えられます。するとそのデータから計算される平均賃金は、実態からかなり乖離した値になってしまいます。

こうしたことを防ぐために、標本の抽出は原則的に無作為でなければなりません。「無作為」とは、母集団からサンプルを抽出する場合に、まず母集団の中の一つひとつが調査対象に選ばれる確率が同一であることが必要です。この無作為性の意味合いとして典型的なものは、形、材質の同じ多数の球を十分動き回れる空間のある袋の中で十分撹拌した後に目隠しをして1つを取り出し、記録したうえで、再び袋の中に戻す、という手順を繰り返すことがあります。各回の取り出しにおいて、それぞれの球が取り出される確率は同一であるからです。これと同様な状態にあるとみなされる方法で、調査対象の抽出が行われなければなりません。
図 所定内給与額階級別分布

図 所定内給与額階級別分布

次に、抽出が無作為に行われた場合でも、たとえば対象が少なすぎると、抽出された標本集団が母集団の分布を反映しない可能性が高くなります。図のように月額60万円以上の所定内給与を得ている人は全体の4.5%ですが、たとえば少し極端ですが、標本が2つの対象だけからなるときは、60万円以上の人だけ2人が調査対象に抽出される確率が0.2%あることになります。標本集団が母集団の分布に十分に近くなるためには、ある程度以上の大きさである必要があることがわかると思います。
政府統計はこうした配慮がだいたいなされているといえますが、他の統計調査結果をみる場合には、調査対象の抽出が無作為に行われたといえるかどうか、対象数が十分に確保されているといえるかどうか、チェックしてからみることが必要でしょう(注)。

ここで無作為抽出とは、母集団、すなわち知りたい情報を有する集団全体をベースとして判断しなければなりません。抽出に使った名簿の上から順番になどといったものは論外ですが、名簿からの抽出が無作為であるだけでは足りません。その名簿自体が、母集団からみて無作為とはいえないものである可能性は決して低くないのが一般的です。私が用いる簡便な見分け方は、政府統計でも得られるデータがその調査で出ている場合に、同じような値となっているかどうかというものです。今度お試しあれ!
(注)ただし、全体を映す統計データとしてはいまひとつでも、事例として貴重なデータである場合は多い。
(労働政策研究・研修機構 主席統括研究員 浅尾裕)

賃金事情 2007年11月20日号掲載
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