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賃金事情 News & Report
国家公務員専門スタッフ職を新設 2007年の人事院勧告と給与構造改革の経緯をみる
人事院は8月8日、国家公務員の給与について、月例給を0.35%、特別給(ボーナス)を0.05月分引き上げる勧告を行った。民間企業の給与が改善しつつあるなかで、2002年以降引下げ、または据え置かれていた月例給が6年ぶりの引上げとなり、また、平均年間給与ベースでは、1998年以来の9年ぶりのアップとなった。国家公務員の給与については、2006年度から2010年度にかけて地場賃金の反映、能力・実績主義の強化などの給与構造改革が実施されており、さらに、今年6月に成立した改正国家公務員法により、能力・実績主義に基づく人事評価制度の実施が盛り込まれた。
 2007年の人事院勧告、6年ぶりに給与引上げを勧告

人事院は2005年勧告の給与構造改革により、地場賃金を反映した地域別賃金の導入、年功的な給与上昇の抑制を柱とする職務・職責に応じた俸給構造の見直し、勤務実績を給与に反映する査定昇給の導入の3つを打ち出し、これに沿って改革を推進している(詳細は、本連載2005年9月20日号)。また、2006年には公務員の高給批判を受けて民間給与との比較方法を見直し、従来の100人以上の比較対象企業規模を50人以上に改めた。
その結果、2006年は、従来の比較方法であれば月例給、ボーナスともに引き上げとなるところが、据え置きとなった(詳細は、本連載2006年9月20日号)。
今回の月例給の引上げ率は0.35%(1,352円)。比較調査の結果、公務員給与の平均38万3,541円に対し、民間給与の平均は38万4,893円と上回っていた。同様に、ボーナスも公務員の年間平均支給月数の4.45月を上回る4.51月だったことから、0.05月引き上げて4.50月とした。
月例給の引上げ額1,352円は俸給表の水準改定(387円)、扶養手当(350円)、地域手当(560円)、はね返り分(55円)にそれぞれ充当した。俸給表については、民間との間に相当の差が生じている初任給を中心に若年層に限定して水準を引き上げ、中高齢層は据え置きとした。2005年勧告の給与構造改革により、俸給表水準の平均4.8%の引き下げの際に、年功的な給与上昇を抑制する措置として中高齢層の引下げ幅を7%程度にしており、今回もその趣旨を踏まえて若年層に限定したものだ。
具体的には、採用区分の2種と3種採用職員の初任給を1.2%の改定とし、それに準じて1種採用職員の初任給を改定。その結果、初任給は1種18万1,200円(現行17万9,200円)、2種17万2,200円(現行17万200円)、3種14万100円(現行13万8,400円)とした。
扶養手当については、民間の家族手当の平均支給額は配偶者と子ども2人の世帯は約2万6,000円。これに対して公務員は配偶者1万3,000円、子ども1人につき6,000円。子ども2人世帯では2万5,000円を支給していた。今回、民間とのバランスや少子化対策の観点から、子ども1人につき500円引き上げることにした。子どものいない世帯もあり、平均支給額は350円になる。
地域手当は、2005年勧告で新設された(調整手当は廃止)。周知のように国家公務員の基本給水準は、民間の全国平均の水準に応じて決まるが、民間賃金が全国平均より低い地域では公務員の給与が高くなり、逆に民間賃金が高い地域は公務員の給与が民間を下回るという現象が生じていた。これを是正するために、まず公務員の給与水準を民間賃金水準が最も低い地域に合わせ、平均で4.8%の引下げを実施。一方、民間賃金が高い地域に勤務する職員を対象に、3%から最大18%までの地域手当を設け、2006年から5年間かけて段階的に引き上げることにした。
ただし、以前から調整手当が支給されており、今回は調整手当と地域の支給割合が6%以上の開きがある職員について0.5%の引上げを行うことにした。
「俸給表水準の引下げを経過措置を設けて段階的に実施しており、順次生じる原資を用いて、5年間かけてできるだけ民間に近づけるというのが趣旨。東京であれば本来18%に引き上げる必要があるが、現状では、平成19年度の支給割合は14%であり、今回生じた原資を用いて0.5%引き上げ、14.5%にした」(人事院給与第一課)

 新設された専門スタッフ職の評価
−労組は本来の複線型人事管理の観点から批判

今回の引上げ勧告については、労働組合もおおむね評価している。公務公共サービス労働組合協議会(公務労協)は、「民間の実績からみて当然の勧告。とくに初任給では民間と相当の格差が開いており、われわれも初任給と若年層の俸給表は上げるべきと主張してきた。扶養手当も生活給として重視してほしいと要望してきた経緯もあり、今回の勧告はそれが反映されたものと考えている」と指摘する。
しかし、労使の意見が異なるのが新たに設けられた「専門スタッフ職」俸給表である。今回の勧告では、給与構造改革の一環として、これまでのライン職を中心にした人事管理を見直し、複線型人事管理の導入に向けた環境整備を図るため、新たに「専門スタッフ職」を設けることにした。その目的は、高度の専門的な知識や経験の活用と、問題となっている早期退職慣行による天下りを是正し、在職期間の長期化に対応することの2つの面がある。
当初の見込みでは、2010年までに実施する事項となっていたが、公務員制度改革の観点から政府の強い要請もあり、前倒しして、専門スタッフ職俸給表を新設することにしたものだ。改正国家公務員法で決まった営利企業等への再就職あっせんの禁止と、内閣府に設置する離職後の就職支援を行う「官民人材交流センター」への一元化という動きの中で、在職期間の長期化はますます重要な課題となっている。
専門スタッフ職のイメージとしては、ラインで行政経験を積んだ課長補佐、準課長(室長)、課長クラスが上位の職位に上がる段階で専門スタッフ職に移行するというものである。同様に、審議官クラスから専門スタッフ職に移行することもありうる。これは早期退職慣行による天下りの防止を意識したものであり、「審議官は54〜55歳で辞めるケースが多いが、専門スタッフ職になり60歳まで勤めてもらうことも考えられる」(給与第一課)。
新設された俸給表は1〜3級で構成。俸給水準は1級が本省の課長補佐クラス、2級が準課長(室長)クラス、3級が課長クラスであり、ライン指定職に比べて低い水準に設定している。加えて俸給額の25%に相当する管理職手当も出ないために、課長から専門スタッフ職にそのまま移行したとしても年収で25%ダウンすることになる。それでも準課長、課長クラスの場合、年収ベースで1,000万円ぐらいまでは保証される。
一方、管理監督を受けない自立的な働き方が約束され、勤務時間についても4週間ごとの期間につきフレックスタイム制を導入し、独自に勤務時間を設定できる。
2・3級職員については超過勤務手当も出ないために、残業する必要もないし、国会や予算からも解放される。
専門スタッフ職の任用は、職員の意向も踏まえるが、最終的には通常の任用と同様に本省が判断する。
専門スタッフ職を置くかどうかは各省の判断であるが、当初は少数になるものと予測されている。天下り対策がどうなっていくかも影響するが、「ライン職ですべての人を残すとした場合、昇進ペースを落とすというやり方もあるが、それが難しいとなれば、今後、専門スタッフ職として公務に残ってもらうという方向になっていく可能性もある」(給与第一課)。
これに対して、労働組合側は複線型人事管理の観点から制度そのものに疑問を投げかける。
「複線型人事制度については、われわれも徹底的に議論してきたが、結局、組合員には関係のない中央省庁のキャリアのごく一部の人たちの話になってしまった。複線型人事制度の目的は、天下り防止もあるが、民間における総合職と専門職のように仕事や昇進のやり方を改革するもっと大きな話である。ところが、今回の専門スタッフ職俸給表はそういうものにマッチングしたもとは思えない。出世競争に敗れた霞ヶ関のほんの少数の落ちこぼれを救済するために政府の閣議決定に押し切られて作ったものであり、俸給表も中途半端なものにすぎない」(公務労協)
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<参考1 > 公務員制度改革の経緯について
 すでに試行が始まった 能力・実績主義に基づく人事評価制度

人事院は、勧告と並んで「公務員人事管理に関する報告」を発表し、改正国家公務員法で導入が決まった能力・実績主義の処遇制度の構築について提言を行っている。改正国家公務員法では、能力本位の任用制度の確立、新たな人事評価制度の構築、分限制度(免職、降任等の事由を法令で定める制度)の明確化などを謳っており、2009年度に実施することになっている。
現在、公務員制度全般については、総理の下に置かれた有識者会議で議論され、公務員の労働基本権問題については、行政改革推進本部の専門調査会の議論のテーマとなっている。能力・実績主義人事制度の根幹である人事評価制度については、総務省が人事院の協力により、具体的な制度づくりを進めているが、すでに昨年から一部の職員を対象に試行が始まっている。
第1回の試行は、2006年1〜6月の半年間に、経済産業省を除く全省庁において、課長補佐を被評価者として実施された。評価者約500人、被評価者2,000人が参加している。第2回は、今年1〜6月に実施。対象を係員まで拡大し、9,400人が参加した。そして、これまでは行政職が対象であったが、今年10月からは地方専門職にまで広げて実施する予定である。
評価は「役割達成度評価」と「職務行動評価」の2種類がある。役割達成度評価は、期初に上司と話し合って達成すべき目標を設定し、期末に達成度を評価するものだ。評価結果は部下にフィードバックすることになっているが、試行段階ということもあって、必ずしも全員が実施していないなど公正性、納得性の観点から問題点も浮かび上がっている。
今後も試行を重ねながら問題点を改善し、よりよい評価制度の構築を目指すことになるが、当面の課題としては、評価結果を昇給やボーナス、あるいは昇格にどう反映させていくかにある。

 評価結果をどう処遇に反映させるか
−課題は最終評価結果のフィードバック
人事院の提言では、昇給については、原則として過去1年間の評価結果を活用し、評価項目別の評価結果や所見なども含めて勤務成績の判断を行い、昇給区分を決定するとしている。ボーナスについては、役割達成度評価を基本に勤務成績を判断し、成績率を決定するとしている。
昇格については、上位の職責を果たせるかどうかを過去の勤務実績をもとに判断する必要があることから、現在属している職務の級の在職期間における評価結果を活用することを提言している。つまり、過去数期の評価結果をもとに決めるというものだ。ただし、これ以外にも解決すべき問題は少なくない。
たとえば、試行では、課長が課長補佐以下の全職員の評価を実施しているが、中には30〜40人を抱える部署も少なくない。課長1人が全員の評価を行うことが可能かという問題もある。
フィードバックについても、一次評価者の評価結果は部下に開示する方向で進められているが、最終評価結果までは求めていない。こうしたやり方で職員の納得が得られるのかどうかという問題もある。
さらに、苦情処理窓口をどういうものにしていくかも今後の検討課題である。また、現行制度についても各省間で異論が出ており、各省や労働組合と調整しながら構築していく作業も大きな課題となっている。
改正国家公務員法については、労働組合は当初から批判してきた。その最大の理由は「公務員制度を今後どうしていくのかという抜本改革の方向性がまったく示されていない」(公務労協)点にある。したがって、法律自体が参議院選挙目当ての政治的パフォーマンスにすぎないという厳しい見方をしている。能力・実績主義の人事評価制度についても、実態を踏まえずに法律に明記した点を批判する。
「肝心の人事評価制度は現在施行途中であり、どういう評価制度がつくられるのかわからない段階で任用や給与、分限に反映させると書いてしまった。しかし、評価制度を人事管理に使うにしても、試行の段階で、各省当局は現場が混乱するのは避けたいという理由で、評価結果を開示しないところも多い。それに苦情処理システムも全然整理されてはいない。われわれは労働組合がちゃんと参加できる形の苦情処理システムをつくるべきだと主張している。正直言って、今の試行の現状をみれば、どういう評価制度ができるのかわからないのが実態。もし、評価結果を開示しない人事評価制度になれば、われわれとしては任用や給与に使うことに反対せざるをえない」(公務労協)



労働組合にとっては、労働基本権のあり方も重要な関心事である。労働基本権については、この秋に前述の専門調査会が最終報告書を出す予定になっている。
民主党も労働基本権の付与については賛成している。
労働基本権の付与により、労使で賃金や労働条件を協議していくことになれば、評価制度を含む人事管理のあり方にも大きく影響してくることは間違いない。(ジャーナリスト 溝上憲文)

賃金事情 2007年9月20日号掲載
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