事例 No.081 ウシオ電機 特集 暗黙知を見せる営業教育
(企業と人材 2017年1月号)


update:2017.08.11

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

営業課長がメンバーとなる「営業育成委員会」で
育成課題や育成策を話し合い、ノウハウを共有する

ポイント

(1)営業課員の育成は、課長に任せる。そのうえで営業の生産性向上やノウハウの共有を進めていくため、2010年に「営業生産性向上委員会」を発足。

(2)「営業生産性向上委員会」では、どの製品・事業部においても必要な営業の行動をまとめた「営業活動マニュアル」を作成。その後、営業の評価の統一のため「営業力評価基準」を作成。取り組みは「営業育成委員会」に引き継がれる。

(3)課員へのアンケートから「理想の課長像」を導き出す。それをもとに、各課長が課員に対し てそれぞれ研修や育成策を実施。

仕事と人生の充実を一致させる育成をめざす

産業用光源やその光源を組み込んだ装置・サービスを取り扱うウシオ電機株式会社。エレクトロニクス業界向け各種光源・装置、シネマプロジェクター用ランプ、医療機器や殺菌・脱臭用装置など、多用な製品をさまざまな業界・分野に提供している。

図表1 ウシオ電機の企業理念

図表1 ウシオ電機の企業理念

同社の企業理念は図表1のとおり。最初に掲げられているのが、「会社の繁栄と社員一人ひとりの人生の充実を一致させること」である。同社は2014年に50周年を迎えたが、この理念は創業以来変わっていないという。それを体現するために守るべきこととして示されているのが、「私たちの行動指針10」である。こちらは時代にあわせて少しずつ変えているそうだ。企業理念と行動指針は、人材育成の基本的な考え方でもある。
最近の人材育成に関するトピックとしては、2015年からスタートした「ヤングエグゼクティブ制度」があげられる。これは、ウシオグループに属する30歳前後の社員を対象に、公募・選抜を経て選出、経営戦略などの理論の習得と、実際の経営課題に関する具体的な取り組みを行うことで、将来の経営人材としての基礎を築いていくというものだ。期間は1年半と長期にわたる。
内容は、MBAのような高度なビジネススキルを獲得するプログラムや、リーダーシップを身につけるためのプログラム、売上げの8割が海外ということからグローバル人材育成のためのプログラムなどで、かなりハードだ。初年度となる昨年は20人が選抜され、現在は2期目17人が活動中だ。

営業生産性を高めるため、ノウハウを共有する

では、今回のテーマとなる営業社員への教育についてみていこう。
営業社員は全社員の約1割。営業に求められているのは、「お客さまからの『信頼』と個人の達成感・会社の発展」をつなげること。そのために重視しているのは、「個人」、「ウシオ人」、「社会人」としての基本を大切にすること、つまり人として大切にしなければならないことをおろそかにしないことである。それに加えて、もちろん知識や能力も必要となり、営業に求められることは大きい。
とはいえ、同社では営業に特化した研修は行っていない。教育体系としては、全社員が受講する「階層別研修」と「キャリア開発」のほかに、「職種別研修」がある。職種別研修は、社員が必要に応じて受講するもの。たとえば、「製造技能研修・自主保全研修・安全衛生研修・小集団活動」、「技能系研修(トレーニングセンター講座・テクノフェア)」などがあり、製品・技術について知りたい社員や新しい知識を身につけたい社員が受講している。
同社では、営業社員への教育はOJTが基本となる。教育はそれぞれの営業課長に任されており、営業課長は与えられた予算のなかで部署や部下に必要と思われる研修や施策を、かなり自由に行うことができるのだ。
同社はさまざまな製品を開発、提供しており、対象となる分野・業界も多岐にわたる。営業部門は基本的には製品別で構成されているが、1つの製品がさまざまな分野で使われていることもある。そのため、必要な研修・講座を臨機応変にできるよう、課長に権限を与えているのだ。
課長が中心となって育成にあたるうえで重要な役割を担っているのが、「営業育成委員会」である。営業課長に教育を任せることができているのは、この委員会の存在が大きいともいえる。
営業育成委員会ができるきっかけとなったのは、2007年に2つの事業部が同じビルに移転してきたことである。移転を機に、交流が深まるようになり、ウシオ電機全体の底上げをめざすためにも、営業生産性を高め、ノウハウを共有していこうという議論が起こってきた。そして、2010年9月に発足したのが、営業育成委員会の前身となる「営業生産性向上委員会」である。
営業生産性向上委員会のメンバーは、部長15人ほど。生産性向上による事業の発展をめざし、まずはマネジメント層が生産性目標をもつことの重要性や、営業の生産性を高めるための施策などについて話し合った。そこでの成果物の1つが、「営業活動マニュアル」(図表2)である。

図表2 営業活動マニュアル

図表2 営業活動マニュアル

営業活動マニュアルは、「準備」、「商談」、「継続」の各段階で求められる営業の行動パターンを、全61項目で、かなり細かく示したものである。たとえば、「準備」段階では、「ターゲット・ユーザー・市場を選定する」といったステップと、そこで求められる達成基準が書かれている。これらは生産性向上委員会での話し合いで共有された事例を参考に、どの製品、どの事業部においても必要な営業の行動をまとめたものだ。作成には1年以上かかったという。
2011年からは、活動はプロジェクトに引き継がれる。プロジェクトで議題にあがったのは、営業社員の評価の統一についてである。扱う製品が違うことから、営業社員の評価は事業部や部署によってバラバラだった。そこで、評価基準の目安を統一するため、「営業力評価基準」を作成。これは、「営業力」を構成するものを「販売力」、「折衝力」、「コミュニケーション能力」など7つの中分類に分け、それをさらに26の小分類に分けたものを項目として、評価するというものだ。
各項目について、社内・社外を問わず達成できているかを点数でみる。2012年からは、この評価基準を用いた面談を、各部署で半期に1度実施している。その際は、まず本人が自己評価し、そのあとに上司が評価して、それをもとに面談を行っている。この評価基準の作成にも1年以上かけたという。
「営業は数字で評価されることが多いのですが、数字に表れないがんばりもしっかりみようと、それまでの評価基準をブラッシュアップしてできたのが営業力評価基準です。数字には運などが関係してくることもあります。また、いくら売上げがよくても、人として、ウシオ人としての基本ができていなければ何にもなりません。営業社員に求められる数字については、別で評価しています」
こう話すのは、現在、ウシオ電機の国内グループ会社・株式会社ジーベックスで営業部部長代理を務める朝木真一さん。朝木さんは、2014年に課長になったと同時に営業育成委員となり、2016年4~10月までは委員長を務めた人物だ。

課員へのアンケートから理想の課長像を導き出す

その後、活動は育成準備委員会へ、そして2012年4月からは営業育成委員会へと引き継がれていった。準備委員会までは営業課長経験者など、育成に関心のある人もメンバーに入っていたが、いまは全営業課長・約10人である。月1回集まって、さまざまな議論や情報共有を行っている。
前述したように、朝木さんも2年前に課長に任命されたと同時に委員会のメンバーとなった。朝木さんがメンバーになったころからの中心テーマの1つが、「課員のモチベーションを上げるにはどうすればいいか」といったことである。
このテーマについて、メンバー同士で議論をするうちに、「課員の前に、自分たち課長のモチベーションを上げるにはどうしたらいいのか」、「課長の育成が課員の育成につながるのではないか」という話が出てきた。そこで、課員が求めている理想の営業課長について、各自、課員にアンケートを取ってくることになった。
「アンケートの質問項目は、『ウシオ電機の営業課長に必要と思われるスキル・人物像』や『こういう営業課長になってほしい』、『こういう営業課長になってほしくない』などです。かなりトライアルなアンケートだったのですが、課員はちゃんと答えてくれていました」(朝木さん)
課員からはさまざまな意見があがってきた。たとえば理想の課長像としては、「部下の能力・人柄を正確に把握し、的確に指導する人」、「方針を指し示し、皆を動かすことができる人」、「課員一人ひとりのよさを引き出す能力」、「相手の意見に耳を傾けること」などである。課長に対する要望を書いている人もあった。
営業育成委員会でアンケート結果を分析するうちに、いくつかの共通要素がみえてきた。それらをまとめてできたのが、「理想の営業課長ガイドライン~ウシオの営業課長を務める上で押さえたい3つのガイドライン~」である。3つとは、「ビジョン(上位方針)を噛み砕いて、自分の言葉で語る」、「チーム力で最大限の力を発揮する」、「常に挑戦する」だ。
3つの具体的な内容についても、わかりやすく記述している。これは、項目名だけでは人によって解釈が違ったり、どこまでやったらいいのかわからなかったりする場合もあると考えたためだ。
このなかに、「期初に課の方針や課長自身の思いを部下に伝える」という言葉がある。あわせて、「言葉だけではなく資料を作ることがポイント」とも書かれている。これは、ある課長が実際に課内で行っていることを委員会で伝えたところ、自分の課でも取り入れる課長が出てきたことから、ガイドラインに入れることになった。いまでは、すべての課の会議で行うようになっているそうだ。
人材戦略部キャリア開発課主任の中田結花さんは、育成委員会で話し合われたことを人事制度や今後の教育に活かすため、毎回事務局として参加している。中田さんは、育成委員会の活動について、「やり方は課長によってさまざまです。思いの伝え方にしても、数枚にまとめる人もいれば、パワーポイントでしっかりつくり込んでいる人、自分の趣味に関連させて伝えている人など、それぞれ個性が出ています。それを営業育成委員会で話し合うなかで、いいところをお互いに共有し合ったりしています」と話す。

課長が中心となり、さまざまな育成策を進める

営業育成委員会では、課長同士が現在抱えている課題やその解決策を話し合い、共有し、それを現場の課員の育成にフィードバックしている。前述したように、課長が部下育成に深くかかわることができているのは営業育成委員会の存在が大きい。
経営層や部長も、いままでの流れを知ったうえで育成委員会がいろいろ考えていることを理解しているため、任せてくれているという。
営業育成委員会であがったことは、必ずやらなくてはならないということではない。とくに育成については、各課長のやり方があるため、自主性に任されている。聞いた内容をもとに、自分なりのアレンジを加えてもよい。
ただし、課員のアンケート結果などからわかった、相手を知ること、そのためにはまず自己開示をすることなどの大事な部分は、委員会メンバーで共有している。
朝木さんも、委員会で聞いた話を自分でやってみたり、自分がやって効果があったものを伝えたりしている。朝木さんが自課内で展開したものの1つに、営業ステップ・スキルの作成がある。
朝木さんは課長になってから、ソフトブレーン・サービス株式会社が主催するプロセスマネジメント大学で学んだ経験がある。それを活かして、営業の流れを5つのステップに分け、それぞれに必要なスキルを66あげたものを作成し、課員の育成に活用してきた。
上述の「営業活動マニュアル」と違うのは、そこに、これまでの経験から得た、ウシオ電機独自の臨場感あるトークスクリプトを入れていることだ。たとえば、会話の入り方として、「入口にあった〇〇は何ですか?」、「看板に特徴があって面白いですね」といったものだ。トークスクリプトは、課員の意見も聞きながらつくっていったという。これを営業育成委員会で発表したところ反応がよく、さっそく取り入れる人もいたそうだ。
そのほか事前準備シートなどを作成し、共有したりしてきた。さらに朝木さんは、部下の育成のための合宿研修も自課内で行ったという。
「当社の商品は価格が高いものもあります。そこで合宿では、お客さまから『高い』と言われたときの返し方を、ロールプレイングをとおして学んでいくことをやってみました。自社以外の製品を対象に、お客さま役の課員が『高い』と連発するなか、製品の性能だけでなくサービス面も含めてこの価格であることを伝えて説得していく訓練を行ったのです。
ほかの課員は、顧客役と営業担当役のやり取りを周りで見て、あとで気づいたことを出して話し合います。それを繰り返し行って、ポイントをたたき込んでいくのです。課員からは、『見られることで自分の癖がわかった』、『ほかの営業担当がどうやって商談しているかを見ることができてよかった』という声が出ていたので、やってよかったと思います」(朝木さん)
こういった研修が課内で実施できるのは、営業課長に人材育成のための一定の予算が認められており、その枠のなかで自由に教育を行うことができるからである。さすがに合宿となると上長に話をとおしておく必要はあるそうだが、人事の承諾を得る必要はない。そのため、半日程度の研修であれば、自分たちで会議室などを借りて行っている課も多いという。
朝木さんの行った合宿の内容も、営業育成委員会で共有した。そうやって課長同士が情報を共有、意見交換していることで、効果的、効率的な育成方法がさらにブラッシュアップされていくのである。

今後はグループ全体の底上げをめざしていく

営業育成委員会はいまも月1回開催されている。話し合うテーマはいくつか掲げているが、そこにこだわることなく、つど現場で抱えている課題を抽出して、解決策を議論している。そのようななかでも、現在、大きなテーマとなっているのが、営業アシスタントの評価・育成についてである。
同社は2016年4月に人事制度を改訂し、一般職を廃止、全員総合職となった。それまで営業部門の一般職は、主に営業アシスタントに従事していたが、よりチャレンジングな仕事を任せるようになってきている。営業は数値で表すこともできるが、アシスタントの成果はなかなかみえづらい。
「育成委員会で多くの課長から、アシスタントの評価の仕方が課題だとあがっていました。評価の仕方ももちろんですが、そもそも、評価の前の目標設定のやり方やマインドセットについて、どうやればいいのか悩んでいたのです。そこで4月から、評価をどうしていくか話し合っています(」中田さん)
営業育成委員会で出てきた意見や解決策は人事部門にも伝える。それをもとに、人事制度の変更などに発展していくこともある。
先に触れた理想の営業課長ガイドラインのなかには「“会社を変えるのは社長ではなく課長だ”という自覚を持ちましょう」、「課長は会社組織のキーマン=顔です」と記されている。これは会社としての共通認識にもなっており、浜島健爾社長も、その考えを常々伝えているそうだ。そういった共通認識が社内にできているため、意識の高い課長が多く、課長が主体となって育成を行うのがあたり前という風土が確立されているともいえる。ある意味、営業育成委員会は、そんな課長を育成する場にもなっているようだ。
「当社の商品には一品一様といったものもあり、事業部・部署が違えば、やり方も違います。それを一律にしようとすると、課長のやる気を削いでしまう場合もあります。全員が同じやり方でなくてもいいので、柔軟にやっていきたいと思っています。その点では、営業育成委員会で、朝木が外部で学んだノウハウを伝えて共有したり、そこで成功体験を積んで周りに広げていったことは大きく、そのプロセスがあったからこそ、いまの育成のやり方ができてきたの
だと思います」(中田さん)
朝木さんは現在、グループ会社のジーベックスで営業として活躍している。ジーベックスはデジタル・フィルム映写システムや3D映写システム、音響・映像システムなど、映画館の設備を一手に引き受けており、営業社員のスキルも高い。いままでとは違った分野となるため、これまで培ってきたものを活用しながら、新たなやり方を考えていきたいと語る。今後は、グループ全体の底上げもめざしたいという。
「より刺激を与えられる機会を提供していければと思っています。2016年8月には、営業育成委員会が主体となって、韓国の現地法人の部長と課員に日本に来てもらって、日本の営業課長・課員と、営業育成の取り組みについて意見交換する交流会を実施しました。国を超えて悩みの共有ができたと評判がよかったので、そういったことを続けていければと思っています。そうしてグループ全体で力をつけていくために、これからも議論していきたいですね(」朝木さん)
以上、ウシオ電機の営業教育について紹介してきた。同社に限らず、課長などのミドルマネジメントは企業の要といっていい重要なポジションである。営業教育に現場をよく知る課長が積極的に関与することの重要性を再確認できた。

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要

社名 ウシオ電機株式会社
本社 東京都千代田区
設立 1964年3月
資本金 195億円
売上高 1,791億円(2016年3月31日現在 連結ベース)
従業員数 1,744人(2016年3月31日現在)
事業案内 光応用製品事業ならびに産業機械およびその他事業
URL http://www.ushio.co.jp/
(左)
ジーベックス
(ウシオ電機より出向中)
営業部 部長代理
朝木真一 さん
 
(右)
ウシオ電機
人材戦略部
キャリア開発課 主任
中田結花 さん


 

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