事例 No.020 富士ゼロックス 特集 キャリア・チェンジと人材育成
(企業と人材 2015年3月号)


update:2015.08.27

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

受講者の立場で考え、柔軟なプログラムで対応し
前向きな営業職への転換を支援する

ポイント

(1)お客さまとの接点を増やし、細やかなソリューション営業の実現をめざす。さまざまな部門から集まり、営業職への職種転換研修を受講。

(2)「マインド編」、「知識編」、「スキル編」、「実践編」の4つのカテゴリーで研修を実施。内容や日程は受講者に合わせてフレキシブルに対応。

(3)キャリアや年齢の違う受講者たちをあえて一緒にすることで、互いに切磋琢磨し、前向きな気持ちの醸成を促すとともに、世代を越えた仲間意識をつくる。

毎年、職種転換研修を実施前職はさまざま

富士ゼロックス株式会社は、いうまでもなく複写機、レーザープリンターの大手だが、製品の販売に止まらず、文書・イメージ管理のための総合的なソリューションコンサルティングを提供することで高い信頼を得ている。
顧客は大企業が多い。しかし、最近はA4 サイズに特化した、比較的購入しやすい価格帯の複写機を販売し、いわゆるSOHO を中心とした購買層も増やしている。
そんな同社では、お客さまとの接点強化のため、年に1回ないしは2回、営業職への転換研修を実施している。
研修の時期は10 月。人数は年によってばらつきがあるが、2013年は約60 人だった。
対象は、いうまでもなく営業職へ転換した人、ないしは転換が予定されている人ということになる。前職はSE 職の人が多いが、事務センター職、研究開発職、スタッフ職などさまざまだ。また、年によっては、グループ会社の人たちが受講することもある。グループ会社からの受講者も、保守職、テレホンセンター職など、前職は多様である。
スケジュールは年によって異なるが、おおむね1~2週間程度で、プログラムは大きく4つのカテゴリーからなる。「マインド編」、「知識編」、「スキル編」、「実践編」である(図表1)。

図表1 富士ゼロックスの職種転換研修プログラム

図表1 富士ゼロックスの職種転換研修プログラム

以下ではそれぞれのカテゴリーについて、プログラムの内容をみていくことにする。

営業職としての心構えを学ぶマインド編のプログラム

「マインド編」では、これから営業職としてやっていくための心構えを学ぶ。
「営業担当者としてのマインドを醸成するためのプログラムです。現場に出れば、お客さまからクレームをいただくこともあり、やはり営業職の仕事には厳しい面があります。そうしたプレッシャーに負けないためにも、営業職として、これまでの知見を活かして会社に貢献し、自分も成長していくための心構えをつくってもらうのです」
そう話すのは同社・営業生産性強化部マネジャーの石濵健一郎さん。
以下、マインド編のプログラムをいくつか紹介しよう。
(1) 利益の考え方
営業職として利益をどのようにとらえるかを学ぶ。営業職には利益に対して、よりシビアな姿勢が求められる。たとえば、お客さまを訪問すると原価はいくらになるのか、そんなことにも注意を払う必要がある。そういった考え方に慣れてもらうためのプログラムである。
(2) お客さま視点に立った価値提供
富士ゼロックスは複写機メーカーとして有名だが、いまの複写機は、スキャナーでもあり、プリンターでもあり、クラウドを利用したドキュメントセンターでもある。それらの機能を活用することで、お客さまのニーズにより柔軟に対応したシステムを組むことが可能だ。さらに同社にはさまざまな分野のグループ会社もある。それらのリソースを活かして、新しい価値を提供することを改めて考えてもらうプログラムである。
「単に製品を売ればいいということではなく、お客さまの業務がどれだけ軽減されるのか、新しい領域に注力できるのかといった視点をもってほしい。そういう視点の大切さを認識してもらうのがねらいです」
(3) 問題発見・解決セッション
これはレゴを使ったプログラムである。5~6人のチームで、レゴを使って「ゼロックス」という文字を作る。その後、PDCA を回して、完成までの時間を短縮していくというものだ。最初は15 分かかったものを、たとえば6分にするにはどうするかを考える。ゲームの要素を入れてチームでPDCA を回すにはどうしたらよいかを学ぶプログラムである。

営業職に必要な知識を学ぶ

次は「知識編」についてである。主なプログラムには、以下のようなものがある。
(1) ソリューション営業プロセス
同社では、営業職を「課題解決のための最適なソリューションを提供することで、お客さまの事業拡大、生産性向上に貢献する仕事」と定義し、その実現のために必要な7つのプロセスを定めている。それがソリューション営業プロセスである(図表2)。

図表2 ソリューション営業の7つのプロセス

図表2 ソリューション営業の7つのプロセス

顧客企業や、顧客企業の属する業界の情報を収集・分析し仮説を立案する「事前準備」、仮説を検証しながらお客さまに興味をもってもらうべくアプローチする「興味喚起」、顕在化している課題はもちろん、潜在的な課題も明確化しお客さまと共有する「ニーズの共有」、お客さまの課題に対し総合的に解決策を提案する「提案」、そして、注文をもらう「受注」、システム構築や機器納入などの「設置検収」、長期の信頼関係を築き上げる「フォロー」、という流れになる。
これら7つのプロセスで、具体的にどのようなことをするかを学ぶのがこのプログラムだ。
「新人研修ではソリューション営業プロセスの研修だけで10 日間かけます。たとえば、『興味喚起』では、ロールプレイでお客さまとのやり取りをやらせて、どこが悪かったか、細かくアドバイスしています。しかし、職種転換研修ではそこまでする必要はないので、各プロセスの押さえるべきポイントやお客さまとの接し方などを、座学中心に1日で教えています」
(2) SFA 概要・操作説明/e-HUB 基礎編/応用編
SFA というのは、Sales ForceAutomation の略で、営業プロセスや進捗状況を管理し、営業活動を効率化するシステムの総称だ。同社では営業担当者が日々の営業活動をイントラネット上に記録することで、上司が商談の進捗状況を確認できるようにしている。また、このシステムを使って必要な情報を他の営業担当者と共有することもできる。
e-HUB は同社の受発注システムで、「SFA 概要・操作説明」と同様に、その使い方を学ぶプログラムである。
(3) 自社商品研究
このプログラムでは、製品1つひとつの特徴を学ぶというよりも、たとえばイントラネット上の製品情報の検索の仕方や見るべきポイントを知る。また、競合他社の商品について検索方法や見方も学ぶことになる。
(4) A program
A program とは、同社で行われているオフィス最適化提案のことである。
ほとんどの企業では、複数のコピー機やプリンターを使用しているが、部門ごとに設置されていることもあれば、フロアごとに設置されていることもある。計画的に配置されているとは限らず、部門ごとに、必要に応じてそのつど購入していることも多い。そこで、同社ではオフィス内の人の流れや機械の使用頻度、セキュリティーの状況など、さまざまな観点からオフィスを分析し、コピー機やプリンターの最適配置を提案している。この考え方や手法を学ぶプログラムである。

営業職に必要な実践的スキルを身につける

「マインド編」、「知識編」に続いて、3つ目のカテゴリーが「スキル編」である。ここでは営業担当者に必要なスキルを学ぶ。主なプログラムは、以下のようなものである。
(1) アプローチ
アポイントの取り方、訪問の仕方、話の切り出し方など。
(2) オブジェクションハンドリング
お客さまが不安、不満、不審を感じたときの対応方法。
(3) サーベイ
お客さまを訪問した際、どのようなところを観てニーズを探るか。
そして、最後のカテゴリーは「実践編」である。「マインド編」、「知識編」、「スキル編」が座学中心なのに対して、「実践編」はワークショップやディスカッションなど、受講者自身が積極的にかかわる形式のプログラムが多いのが特徴だ。
(1) お客さまを知り抜くワークショップ
架空のお客さまに、いかにアプローチするかを学ぶプログラム。
「グループでディスカッションして興味喚起のための資料を30分で作ってもらい、架空のお客さまを訪問してもらいます。そして各チームの良かった点、悪かった点を指摘するということを繰り返します」
トレーナーがお客さまの役を演じ、架空の商談を進めることになる。グループは大体5~6人。それ以下だとあまり意見が出ず、それ以上になると逆に意見が割れることが多いからだという。
(2) ホスピタリティ
これはテーマパークなどのケーススタディを交えながら、相手の立場になって考えることを学ぶプログラムである。ホスピタリティ協会の資格を持った社員が講師となり、このケースではどうしたらいいかといった問いかけをしながら、受講生自身に考えさせるスタイルで行われる。
(3) ICT 基礎教育
複写機の販売では、顧客企業の総務部が窓口になることが多かったが、いまではIT 部門にアプローチすることも増えている。そこで、ICT についてあらためて学ぶのがこのプログラムである。知識だけではなく、IT 部門のお客さまが課題として認識していることを設定して、ロールプレイで対応を学ぶ。
(4) 価値提供を考えるグループワーク
富士ゼロックスグループ全体のリソースを利用して、お客さまにどのような価値提供ができるかを考える。
(5) 事例紹介
優秀な成績をあげた社員を講師に、どのようにしてお客さまに賛同してもらえたか、どのようにして長い信頼関係を構築できたかなど、経験談を聞く。
(6) プランニング
多くの得意先を担当し、一定の期間で実績を上げていくために、どのようにすればいいか、自分の営業計画の立て方を学ぶ。

受講者に応じて柔軟なプログラムで実施

以上がプログラムの内容である。受講者の声としては「営業職として必要なことがわかった。今後、現場で一人前に活躍できるようになりたい」というコメントが一番多いという。
かなり密度の濃い研修である。ただし、これはある年を例にとったもので、毎年同じではない。ある年は10 日、ある年は7日など、年によって期間が違い、プログラムの内容も変えている。
「3日の場合もあります。3日コースは営業職で採用され、5年以上の営業経験があり、営業職を離れていた期間が10 年未満という人が対象です。毎回決まったスケジュールで実施しているのではなく、研究開発職の人が多い年はマインド編を増やしたり、営業経験のある人が多いときには知識編、とくに商品教育を増やしたりと、柔軟にプログラムを組んでいます」
また、年によっては10 日間コースと3日間コースなど、複数のコースを実施することもある。ただし、そういう場合には日程をずらして対応する。
受講者の年齢層も多様だ。多いのは40 代だが、下は20 代後半から上は55 歳くらいまで。親子ほども年が違うメンバーが受講することもあるわけである。さまざまな年齢の人を一緒にすることによって、互いに切磋琢磨してがんばろうという前向きの気持ちが強くなるという。
「20 代ががんばっている姿をみれば、50 代はもっとがんばろうと思いますし、50 代ががんばっている姿をみれば、20 代も負けていられないと思うはずです」
ライバル心ばかりではない。同社の研修所に宿泊して行うため、世代を超えた仲間意識も醸成されるという。
「それもねらいの1つで、期間中には親睦会を実施しています。10 日間のコースでは、初日にうちとけるために1回、真ん中辺りで1回、最後に結束を固めるためにもう1回行う、というケースが多いですね」
同社は同期意識が強いそうだ。新入社員研修が合宿形式で3カ月にわたって行われ、配属されてからも、気軽に全国の同期の社員に連絡を取り、情報を共有し合うカルチャーがもともとあるという。同じような同期意識がこの研修でもつくられるようだ。

受講者一人ひとりの事情や気持ちを大切にする

最後に、職種転換プログラムを実施するにあたって注意するべき点を聞いた。
「受講者のことを考えるということに尽きると思います。たとえば、研究開発職から営業職に変わる場合に、研究開発部門でどんなことをやってきたのか、どういう気持ちで仕事をしていたか、営業職に移ることをどのようにとらえているのか、一人ひとりの状況や気持ちをできるだけ考えるようにしています。年齢も家族構成も違いますから、一律にやるわけにはいきません。また、良いことばかりではなく、失敗事例も話すように心がけています。それが結局は、長い目でみて本人のためになると思います」
経営環境が大きく変わることが多い昨今、企業組織だけでなく、業態そのものを変えるケースすら出てきている。職種を変える必要に迫られる社員も、増えていくことだろう。このような職種転換研修の必要性は、今後、ますます高まっていくに違いない。

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要

社名 富士ゼロックス株式会社
本社 東京都港区
設立 1962年2月
資本金 200億円
売上高 1兆1,429億円(2014年3月期連結)
従業員数 8,592人(2014年3月期単独)
平均年齢 44.4歳(2013年度)
平均勤続年数 19.3年(2013年度)
事業案内 複写機、複合機、プリンターの製造・販売、ソフトウエア開発
URL http://www.fujixerox.co.jp/
営業生産性強化部
営業・SE力強化センター
S&S営業力強化グループ
マネジャー
石濵健一郎さん


 

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