事例 No.089 マツダ 特集 広島の人材育成に学ぶ
(企業と人材 2017年3月号)


update:2017.09.19

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

共創によるイノベーションをめざし、
部門を超えた対話でブランド価値への理解を深める施策を展開

ポイント

(1)若手の段階から、各領域の専門性を磨くとともに、多様な人材と仕事をするうえでの共通言語となる課題形成力を身につけさせ、共創によるイノベーションをめざす。

(2)「マツダ・ビジネスリーダーデベロップメントプログラム(MBLD)」は、3階層に分かれて全社員が参加。部長以上が対象の第1カスケード/ディスカッションでは、600人が100テーブルに分かれてブランド価値経営を議論。

(3)役員・本部長が塾長となり、各部門から選抜された塾生に自身の経験や思いを語る「マツダ塾」。修了後には、塾生が学んだことを若手に語る「子塾」も実施。

ブランド価値経営を掲げ、人と社会を豊かにするクルマづくりをめざす

「『走る歓び』と『優れた環境・安全性能』を提供する」を基本ポリシーに掲げる自動車メーカー、マツダ株式会社。「Zoom-Zoom」というユニークなブランドメッセージとともに、近年では特徴あるデザインのクルマを世に出している。

図表1 マツダのコーポレートビジョン

図表1 マツダのコーポレートビジョン

同社は現在、「ブランド価値経営」を経営方針に掲げる。方針として掲げられたのは2013年からだが、それ以前から社内では、自社の理念、あり方について議論が重ねられてきたという。
2015年には、コーポレートビジョンを変更している。図表1がそれだ。新しいコーポレートビジョンは「ブランド価値経営」を明確に言葉にしたものだという。人事室事務・技術研修チーム、アシスタントマネージャーの宮本博史さんはこう話す。
「ビジョンの1つ目には“人生の輝き”とありますが、私たちは車は文化であるというふうに考えていて、車によって得られる経験が人々を豊かにすることを追求していきたいと思っています」
また、「お客さまに」ではなく「人々に」としているのは、同社の車を購入した人だけではなく、社会全体に「人生の輝き」という価値を提供していきたいという思いが表現されている。
「“道を極め続けます”という部分も、われわれがこだわっているところです。茶道、華道、武士道などのように、日本的な文化や姿勢のような、精神的なものを追求していきたいということを表しています」(宮本さん)

課題形成力を身につけ、共創できる人材を育てる

こうしたビジョンの実現に向け、人材育成においてキーワードとして掲げられているのが、「課題形成」と「共創」だ。
「課題形成」とは、理想を描き、現状を把握し、両者のギャップをいかに埋めるかを考えること。同社では、新人から若手の段階で、さまざまな研修プログラムをとおして、課題形成の力を身につける。これはいわば仕事をするうえでのOSであり、各部門・領域に関係なく身につけておくべきものとされている。そして「共創」は、専門性をもった多様な人材が集まって新しい価値を生み出すことだ。
2つのコンセプトについて、人事室事務・技術研修チーム主幹の山下浩史さんは次のようにいう。
「まずは課題形成の力をしっかりと身につけてもらい、同時に各部門・領域での専門性を高めていってもらう。そのうえで、職場の仲間、部門を越えたメンバー、社外のパートナー、お客さまと対話しながら、新しいアイデアを生み出していく共創という働き方が求められるようになります」
もちろん、それぞれの分野で専門性を磨く教育は行っている。しかし、専門性の高い人材が集まっただけでは、イノベーションは起こせない。そこに共通の言語、共通の仕事の進め方としての課題形成力があってはじめて、マツダらしい新しい価値が生まれるのだという。こうした考え方が具体的な形となっている代表例が、同社の開発プロセスだ。
同社の場合、初期段階から開発だけでなく、生産などさまざまな部門の社員が話し合い、車としての全体最適を求める形で開発が進められる。走行性能と環境・安全性能の調和をめざす同社のスカイアクティブ技術は、まさに共創から生み出されたものといえる。
宮本さんは、「開発や生産だけではなく、共創をマツダ全体のスタンダードとして発展させていきたいというのが、人事としての考えです」と話す。

図表2 マツダの事務・技術系社員人事主催研修体系

図表2 マツダの事務・技術系社員人事主催研修体系

図表2は、同社の事務・技術系社員を対象とする研修体系である。これについては、人事室事務・技術研修チーム、アシスタントマネージャーの日野貴将さんが、次のように説明してくれた。
「マツダでは、“能力・考え方・熱意”という3つの要素に働きかけることで、社員の行動が自律的、継続的に変わっていくことをめざしています。能力は知識・スキルであり、考え方は価値観・意識、そして熱意は、志とかロマンという表現をすることもありますが、これらへの重心の置き方によって研修を系統立てています。
たとえば階層別研修は、新たなポジション・等級で果たすべき役割行動の認識とトランジションを目的としているので、そこで必要とされる“能力”面に比重を置いています。これに対し、マツダ・ビジネスリーダーデベロップメントプログラム(MBLD)は、ブランド価値経営を実現するために共通にもつべき考え方やどんな志を
育むのかを問いかける内容ですので、“考え方・熱意”の面に比重があります」
同社では、志やロマンをもって仕事に臨むことを、マネジメント層から強く求められるのだそうだ。それは、「シニアマネジメントだけでなく、一人ひとりが高い意識、高い理想を掲げて共創していくのでなければ、お客さまに価値を提供できないと考えているから」(宮本さん)だという。

部長層以上の約600人が、クロスファンクションでブランド価値を議論する

人事室では、この間、ブランド価値経営および新しいコーポレートビジョンの浸透に力を入れてきた。その柱の1つが、先に触れた「マツダ・ビジネスリーダーデベロップメントプログラム」(以下、MBLD)である。
これは、変化する環境のなかでも自由な発想と広い視野をもち、的確な判断を下すことができる「変革型リーダー」育成のためのプログラムだ。2000年度からスタートし、今年が第13回となる。
毎回、全体テーマが設定されるが、2013年以降はブランド価値経営に関するテーマを設定してきており、2015年度は「マツダと生きる夢と志」であった。そして2016年度は、お客さまに格別なカスタマー体験を届けるための「Tsunagu(つなぐ)」がテーマに掲げられた。
「そもそもブランド価値経営とは何かというところから議論を始めて、めざす姿への理解を深め、ようやくマツダらしい格別な体験という価値をお届けし、共感、信頼していただくためにはどうしたらいいかという議論に進んできたところです」(山下さん)
同社の考える「リーダーシップ」は、シニアマネジメントや経営トップだけのものではない。新入社員から役員まで、全員が自分事としてリーダーシップを発揮していくというのが基本的な考え方だ。リーダー育成をめざすMBLDが「全社員参加」、「ディスカッション重視」のプログラムであるのは、それを実直に反映しているからといえるだろう。

▲MBLDの第1カスケード/ディスカッションの様子

▲MBLDの第1カスケード/ディスカッションの様子

それではMBLDの具体的な内容についてみていくことにしよう。MBLDは次の3階層に分かれて実施される。
・第1カスケード/ディスカッション(以下、第1カスケード)
・第2カスケード/ディスカッション(以下、第2カスケード)
・第3カスケード/ディスカッション(以下、第3カスケード)
第1カスケードは、部長以上層を対象に、フォーラム形式で行われる1日研修。第2カスケードはそのフォーラムに参加した部長以上層が中心となり、部門ごとに全員参加で開催される全体討議セッション。第3カスケードはそれを人数の多い部門や工場などで開催するものだ。以前は、社長からのメッセージや経営方針を一方向で伝達する面が強かったが、ここ数年かけて、双方向の議論を重視する形に変えてきたという。
まず、第1カスケードのフォーラムだが、9時から18時まで丸一日を使って行われる。休憩を挟みつつ、8時間も議論が続くという。2016年度は12月初旬に行われ、約600人が本社敷地内の体育館に集合。5,6人ずつ、約100テーブルに分かれてグループディスカッションを行った。グループ会社のみならず、取引先会社や、さらには県内大学、県庁からも参加してもらったという。これは自分たちのビジョンを広く関係者に理解してもらい、地域で何ができるか、どういう価値を創出できるのかについても議論するためだ。
当日のスケジュールは図表3のとおりである。まず今回のテーマ「Tsunagu(つなぐ)」について、小飼雅道社長からメッセージが伝えられ、次いでブランド価値経営の課題(できていること/いないこと)について、役員から問題提起がなされる。それを受けて各テーブルでの議論が開始される。

図表3 MBLD第1カスケードのプログラム(2016年度)

図表3 MBLD第1カスケードのプログラム(2016年度)

「各テーブルは生産、開発、営業、事務部門といったクロスファンクションの組み合わせで座っているので、議論していくと、たとえば『これは開発部門ではできているけれども、営業ではまだみえていなかった(その逆もある)。だからお客さまのところまでつながっていない』、『お客さまに信頼し続けていただくために、いま何をすべきか』といったことがみえてきます。それらを成功事例も含めていったん全体で共有して、さらに『どうしたらつながるのか』をテーマに、もう一度テーブルごとに考えてもらうといった流れで進めました」(山下さん)
そして、第2カスケードは、この第1カスケードに参加した部長層が、議論の内容を自分の言葉にして自部門に伝え、部門ごとに全員参加の議論を行うものだ。第1カスケードには各部門から複数の人が参加している。たとえば、人事部門からは約10人が参加した。その人たちが経営幹部の意見を聞きながら、第2カスケードでは何をメッセージにして、どのような言葉で伝えていくかを話し合い、プログラムをつくるのである。人事部門の第2カスケードは約200人に実施される予定だという。
なお、人事としては、第2カスケードを各部門に任せきりにするのではなく、メッセージ内容や伝え方をヒアリングし、アドバイスしている。担当者が手分けして、できるかぎりすべての本部を回り、実際の議論の様子を見てくるという。

経営幹部の思いを継承する「マツダ塾」

MBLDに加えて、2015年度から行われているのが「マツダ塾」だ。これは、将来の経営者を早い段階から育成するための選抜型プログラムで、40歳未満の幹部社員手前の層が対象である。
マツダ塾は役員と本部長を塾長とし、各部門から選抜された社員8~9人を塾生として実施される。期間は1年間。毎年、3人の塾長による3つの塾が開講される。
中心となるのは塾長と塾生の対話だ。2月から7月にかけて、塾長と塾生が7,8回集まり、2~3時間じっくり対話する時間をもつ。「ブランドとは何か」、「今後の事業戦略について」、あるいは「自身の価値観」や「クルマを文化にしていくには何が必要か」など、塾長がさまざまな視点から問いかけ、自身の経験や思いを述べる。対する塾生も、自分の考えを話し、議論する。
「議論をすることによって、塾長である役員や本部長と塾生の思いが統合されていき、考え方や熱意が継承されていくことになります」(日野さん)
塾長と塾生では経験も知識も違う。そこで、対話会の合間にはそのギャップを埋めるための研修を実施したり、塾生が自主的に集まって勉強会を行ったりしている。
そして、マツダ塾の終了から1カ月後には、塾生一人ひとりが塾長となり、「子塾」が開かれる。塾生は20代後半から30代前半の中堅層で、5,6人が集まり、約4カ月にわたりマツダ塾と同じように対話を重ねていく。マツダ塾の塾生たちは役員らから直接学んだことを、今度は自分の言葉で後輩たちに語っていかなければならない。それが、ブランド価値経営やビジョンに対する理解を、より深いものにするという。
また、これにより、下の世代にもブランド価値経営に対する理解が広がっていくことになる。それが、「共創」を実現する組織風土の下支えとなっていく。
「マツダ塾や子塾はMBLDを補完するものです。MBLDでは、第1カスケードはクロスファンクションで行われますが、第2カスケード以降は各部門で行われるため、クロスファンクションにはなりません。マツダ塾も子塾も小規模ですが、塾生はクロスファンクションにしています。こうした取り組みを通じて、影響力のある人を育て、横のつながりのなかで考え方を広げていくことで、部門の壁を破り、お客さまにブランド価値を届けることにつなげていきたいのです」(山下さん)

部門課題を洗い出し、研修を内製化人事交流会も立ち上げる

これらのプログラムとは別に、山下さんらは各部門のマネジメント層と個別に話をして、部門ごとの人的課題を洗い出し、部門単独で、あるいはいくつかの部門をつなぐ形で研修を提供している。各部門特有の専門領域の教育については、部門ごとに置かれた育成担当がイニシアチブをとるが、共通する人的課題、組織課題については人事部門がコンサルティング的な活動を行っているという。
山下さんらの事務・技術研修チームは6人。この人数で、対象となる事務・技術系社員約1万人の研修の9割を内製している。
さらに、山下さんらは他社から参加を募った研修にも力を入れている。とくに、広島を地盤とする産学官から参加する異業種交流研修は定期的に実施しており、会社の枠組みを超えて人材を育成するとともに、つながりを広げている。先日も新しい試みとして、県内の約20企業の人事担当者が集まる人事交流会を立ち上げた。異業種の人事担当者が学び合うなかで、より経営に貢献できる人事のあり方を考えていきたいという。
「東京や大阪と違って、地方には学ぶ機会が少ない。自律的に動いて、自分たちで学ぶ場をつくっていかないと、取り残されてしまうという危機感があります」(日野さん)
「広島くらいの規模だと、東京と違ってキーマンとつながりやすい。ライバル意識よりも、一緒に何かつくっていこうというほうが、イノベーションを起こしやすいということもあります」(山下さん)

グローバル時代にこそ、自文化への愛情と理解が必要となるはず

マツダはグローバル企業でありながら、広島に根ざした企業である。最後に、地元広島への思いについて聞いてみた。
「創業以来、広島の地でものづくりを続けています。原爆からの復興が象徴的な出来事としてあげられますが、それにかぎらず広島は、挑戦とか不屈といった精神性をもっている土地だと思います。当社も、そういった精神をものづくりの源泉の1つにしてきました。そういう精神を根づかせてくれた広島という地に対する尊敬、愛着、感謝の気持ちがあって、それが企業としてのベースにもなっているのです」(日野さん)
同社には、「広島をイノベーションの聖地にしたい」という強い思いがある。世界が驚くような、イノベーションを生み出す人材がどんどん集まってくるところにしたいと、本気で考えているのだという。
「しかし、マツダだけでできることは限られています。イノベーションを生み出していくためには、やはり企業の枠を超えたつながりや多様性が大事になってくる。その第一歩として、同じくチャレンジ精神をもっている広島の企業をはじめ、学校、行政の人たちとのつながりを深めていきたいと思っています。
それは決して広島という土地に閉じこもるということではなくて、むしろ自分たちの地域や文化を愛し、理解しているからこそ、他の地域の人や文化にも敬意を払って接することができるんじゃないかということです(」日野さん)
世界で多様な人たちと仕事をしていくためには、まず自分自身を知る必要がある。企業にも同じことがいえるだろう。グローバル化の時代、ボーダレスの時代といわれる現代だからこそ、逆に自分たちのルーツに目を向ける必要がありそうだ。

(取材・文/小林信一)


 

▼ 会社概要

社名 マツダ株式会社
本社 広島県安芸郡府中町
設立 1920年1月
資本金 2,589億5,709万6,762円
売上高 34,066億円(連結 2016年3月期)
従業員数 21,601人(単体)
平均年齢 39.6歳
平均勤続年数 16.8年
事業案内 乗用車・トラックの製造、販売など
URL http://www.mazda.com/ja/
(左)
人事室
事務・技術研修チーム
アシスタントマネージャー
宮本博史さん
 
(中)
人事室
事務・技術研修チーム
アシスタントマネージャー
日野貴将さん
 
(右)
人事室
事務・技術研修チーム
主幹
山下浩史さん


 

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