事例 No.078 松竹 事例レポート(組織開発)
(企業と人材 2016年11月号)


update:2017.06.08

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

笑いを活用した教育プログラム「笑育®」(わらいく)で
コミュニケーション力や発想力を鍛える

ポイント

(1)社内外に向けたコミュニケーション力などの向上のため、「笑い」を取り入れた研修「笑育」を企業で初めて開催。

(2)お笑い芸人を講師に、ワークと理論を織り交ぜながら、心に残る自己紹介の仕方やレジリエンス、創造力を養うプログラムを実施。

(3)多くの参加者が、講師となった芸人からの学びがあったと回答。あげられた課題を踏まえて、今後、プログラムのブラッシュアップを図っていく。

「笑育」プログラムを企業で初めて実施

近年、企業人にとくに求められているのが、コミュニケーション力や創造力である。これらは日本人は不得意ともいわれ、その克服を課題とする企業も少なくない。
そのようななか、映画・演劇・不動産を主たる事業とする松竹株式会社では、コミュニケーション力や発想力を磨くため「笑い」を取り入れた研修「笑育®(わらいく)」を実施した。これは、グループ会社の松竹芸能株式会社が子ども向けに実施していたコミュニケーション力、発想力、表現力を育成する教育プログラムを、社会人向けにアレンジしたものである。
「笑育」を実施した背景について、人事部人事戦略課課長の新行寺正明さんは次のように語る。
「ビジネスの基本はコミュニケーションです。当社でも、社内外に向けたコミュニケーション能力強化の必要性を感じていました。たとえば、会社の方針やメッセージなどが上司から部下へきちんと伝わっていなかったり、部下の意見や考えを上司が集約しきれていなかったりといったことが起こっていました。部署を越えての情報共有が十分にできていないという声も少なくありませんでした」
それをいかに克服するか思い悩んでいたとき、松竹芸能が提供している「笑育」プログラムが頭に浮かんだという。「笑育」とは、「笑い」をとおして楽しみながらコミュニケーション力などを身につけていくというもの。松竹芸能は2009年から小学校などへの出前授業をはじめ、今年5〜7月には、東京理科大学の学生を対象に大人向けのプログラムも実施した。それらの成果がみえはじめていたことを知り、「社員にも効果があるのではないか」と考え、松竹で実施してみることとなった。
子ども向けプログラムを社会人向けに変更する際には、シチュエーションをビジネスシーンに置き換えて課題設定したり、業務やビジネスで活かすという観点で構成し直したりしたそうだ。

お笑い芸人を講師に迎え、さまざまなワークを実施

「笑育」は、6月から参加者を募集し、7月下旬に10〜13時の3時間で開催した。対象は、同社グループ会社の社員。年齢・役職は問わなかった。
募集の際には、研修という言葉は使わずに、「コミュニケーションのコツを『笑育』で伝える」といった告知をした。研修というと身構えてしまう社員もいるため、なるべく気軽な気持ちで参加できるように考慮したのである。
「『笑育』の趣旨は伝えていたものの、内容は詳細に伝えていなかったので、告知後は『何をさせられるのか』と不安がる声も多く寄せられました」(新行寺さん)
しかし、テーマのユニークさからか、新人から管理職までの幅広い年齢層、さまざまな業種から、定員いっぱいとなる24人の参加があった。うち男性は9人、女性は15人である。
当日のプログラム内容は図表のとおりである。はじめに、松竹芸能の井上貴弘社長から、「笑育」のねらいなどについて説明があったあと、本日の講師となるお笑いコンビ「なすなかにし」と「梅小鉢」が登場。ここからは、彼ら/彼女らが司会・進行も行う。

図表 松竹での「笑育」プログラム概要(10〜13時)

図表 松竹での「笑育」プログラム概要(10〜13時)

最初のレクチャーは、「名前だけでも覚えて帰ってください」。芸人は、まずは名前を覚えてもらうことが重要ということから、効果的かつすぐに覚えてもらえる自己紹介のコツを伝えた。

よく使われるのは、見た目とは逆のことをいったり、特徴を誇張したり、好きなものを前面に押し出すといった方法だ。たとえば、男らしく見える女性が「私、男に尽くすタイプなんです」と印象とは逆のことをいって、ギャップを生み出したりする。
それらを踏まえ、「30秒でインパクトを与える自己紹介をする」という課題が出された。「自己分析シート」に各自、「人からよくいわれる私のイメージ」、「そのイメジの人がしそうにないこと」を記入。出てきたキーワードをもとに30秒間の自己紹介を考える。もちろん、書くだけではなく実際に1人ずつ皆の前で自己紹介してもらう。
発表では、「か弱そうに見られるが、じつはケンカで負けたことがない」など、はじめてとは思えないほど個性的な自己紹介が続いた。そのあとに、どのくらい覚えてもらえたかを確認するため、ボールを投げて、受け取った人の印象で覚えていることをほかの人が声に出していうというゲームを行い、大いに盛り上がった。全員が覚えてもらっていたという成果もあった。
ここで講師から伝えられたのは、「個性は自分ではわからない」ということ。自分で気づいていなかった特徴を、相方や芸人仲間から指摘されることで、自分のキャラを確立していくこともよくあるそうだ。これは社会人にも使える方法である。
続いて、個性を引き出す練習として、心理学で使われる「ジョハリの窓」を活用したグループワークを行った。「ジョハリの窓」は、「開放」、「盲点」、「秘密」、「未知」の4つの領域で、対人関係における気づきを現したモデルである。ワークではこのなかの、自分では気づいていないが他人は知っている「盲点の窓」を開くため、5人1組になり、1人についてほかの4人が印象を伝えていった。
次のワークは「ほめ言葉のシャワー」。これは、話を引き出すのがうまいという芸人ならではのメソッドを学ぶためのもので、そのベースは相手を尊敬すること、真髄は「相手をほめまくる」ことだという。ほめられると相手は気分がよくなり、自分のことをいろいろ話してくれるようになる。ここでも、先ほどと同じ5人1組になり、1人をほかの4人がほめる(この実践は、学級崩壊立て直し請負人として知られる菊池省三氏のメソッドを「笑育」に応用したものである)。
会場がひときわ盛り上がったのが、コミュニケーションのテクニックの1つとして紹介された「言葉の言い換え」発表だ。対人関係においては、いかに相手を不快にさせずに、状況を楽しく、面白くするかがポイントになる。芸人は、その人の弱点や短所を言い換えることで、「個性」に変えているそうだが、社会人にとっても人間関係を円滑にするために学んでおきたい技術だ。
ここでは、「この間と全然話が違うじゃないですか」、「そんなこともできないの!」、「頭が固いですね」といった、そのまま口に出すと角が立ちそうな言葉を、どうやって言い換えるかにチャレンジした。たとえば、「この間と全然話が違うじゃないですか」は、「新鮮です」、「臨機応変ですね」、また「そんなこともできないの!」は、「これはできるのになぁ」、「こうすればできるよ」といったように、機知に富んだ言い換えが出てきて、会場は笑いの渦に包まれた。

▲お笑い芸人を講師にさまざまなワークに取り組む

▲お笑い芸人を講師にさまざまなワークに取り組む

ワークをとおして発想力などを鍛える

そのあとは、「OHカード」を用いて物語を考えるワークである。OHカードはカナダ生まれのインスピレーション・カードで、88枚の文字カードとイラストカードを使って自由な発想をしていくというもの。海外では自分を見つめたり、考えをまとめたりするツールとして、セラピーや医療、ビジネス現場などで活用されている。
先ほどと同じグループに分かれ、異なるイラスト(キャラクター)が描かれたカードを配布。そのキャラクターの「名前」、「年齢」、「家族構成」、「性格」などをメンバーで考えて発表する。キャラクターの人格を考えることは、「その人物になりきる」ことであり、「殻を破る」、「発想力を鍛える」ことにつながるという。他グループの発表を聞くと、「そういう見方をしたのか」といった気づきがあったようだ。
続いては、レジリエンスに関するワークである。芸人はネタですべっても、それを笑いに変えていく。そのレジリエンス(復活力)から学ぶというものだ。
ここではあわせて「ABC理論」を紹介。「ABC理論」は、アメリカの臨床心理学者、アルバート・エリスが提唱したもので、ある出来事や状況(Affaire)は、思考(Belief)によって解釈され、その結果として感情(Conse-quence)が誘発され、行動に影響するという考え方である。
たとえば、「好きな人にふられた」→「私に魅力がないからだ」→「私はダメな人間だ」と考えてしまうところを、思考を「次に向けてもっと自分を磨こう」に変えれば、感情も「もっとよい恋愛をしよう」へと変わる。つまり、考え方次第で結果はよくなるということ。芸人も「凹んだあとの切り換えがうまい人ほど伸びる」といわれるそうだ。
研修の終盤では、「モノマネの意義」について話があった。モノマネとは、自分とは違うキャラクターを演じることだが、そうすることで緊張が和らぐといった効果があるそうだ。また、対人関係では相手によって「私」を使い分けていく必要があるが、さまざまな「私」を知っていれば、引き出せるストックも多くなる。つまり、「キャラを増やす」ことはコミュニケーションのカギであり、モノマネはその練習というわけである。
そうした説明を受けたあと、最後のワークとして、有名人の特徴(口癖、話し方、姿勢など)を書き出し、その人を真似るというハイレベルな課題が出された。このワクでは、自分があげた有名人になりきって、グループで「2億4千万の瞳」をメドレーする。
皆の前でモノマネをしなければならないと知らされた参加者は、最初は戸惑っていたものの、いざ発表の段階になると、芸人顔負けの「しぐさ」や「決め台詞」を披露。歌手やアニメのキャラなどになりきって歌い切った。
「笑育」プログラム終了後には、やりきったという表情を浮かべた参加者も多く、研修開始前と比べて、会場には和気藹々とした雰囲気が漂っていた。

「笑育」で学んだことをいかに仕事に活かすか

研修案内に「3時間でコミュニケーションのコツを伝える」とあったように、笑いを織り交ぜながら3時間でさまざまなワークを実施した「笑育」。やや詰め込み過ぎの印象もあったが、「参加者の感想はおおむね好評で、人事部の目的もある程度達成できた」(新行寺さん)という。
終了後にとったアンケトには、「ハードルの高い課題もあったが、参加者それぞれが一生懸命取り組み乗り越えられたことで、一体感が醸成された」、「コミュニケーションをとおして、チームで成果を上げるということを体感できた」などのほか、「芸人の方の振る舞いが勉強になった」、「ワークの間の雑談からも学ぶことがあった」など、芸人を起用した講義に意義を感じているものも多くあがった。
一方で、「理論をもっと知りたかった」という声とともに、「ターゲットを絞り込むことで、内容も絞り込めるのでは」、「実践したあとにしっかり理論に落とし込めれば、
より納得が深まったのでは」といった提案も寄せられた。
「『笑育』では、参加者がイキイキとしている印象が強く残りました。通常の研修に比べて、他部門の人や初対面の人とのコミュニケーションが格段にとれていると感じ、研修というよりも、プロのコミュニケーション術を体感したという印象があります」(新行寺さん)
ねらいどおり、コミュニケーションのコツをつかむことはほぼ達成できたようだ。とはいえ、人事部としては課題もある。1つは、時間が限られていたこともあり、理論的な話が参加者に伝わりにくかったと思われる点。もう1つは、それぞれのワークがどのような目的で実施されたのか、また、仕事にどうつなげられるかをしっかり落とし込んでいくという点だ。とはいえ、企業で初となる「笑育」プログラムは、成功とみてよいだろう。
「人事部側の課題はもちろん、参加者からもさまざまな改善点があげられたので、それらを踏まえて、より充実したプログラムにブラッシュアップしていきたい」(新行寺さん)と、今後の実施にも意欲をみせている。

(取材・文/江頭紀子)

「笑育®」プログラムの企画・運営

そもそもなぜ「笑育」を始めたのか。教育プログラム化のねらいや期待される効果、今後の展開予定などについて、プログラムを企画・運営する松竹芸能株式会社の事業開発室室長代理の宮島友香さん、同部の卯野友美さんと、昨年からアドバイザーとして授業づくりにかかわっている、東京理科大学教育支援機構教職教育センター専任講師の井藤元さんにお話を聞いた。

▲(左から)東京理科大学 井藤 元さん、松竹芸能 宮島友香さん、卯野友美さん

▲(左から)東京理科大学 井藤 元さん、松竹芸能 宮島友香さん、卯野友美さん

■なぜ「笑育」を始めたのか
松竹芸能では2009年から、子ども向けの職業体験型テーマパーク「キッザニア東京/甲子園」で、お笑い芸人の体験ができるアクティビティを提供している。そこで宮島さんは、体験前後で驚くほど変わっていく子どもたちの様子を目の当たりにした。
「最初は恥ずかしがっていた子どもたちが、舞台に立ってネタを発表すると、表情がイキイキとして別人のように変わっていったのです。『ウケた』という成功体験を得ることで、『やればできる』という自己肯定感が高まっていく様子がみてとれました。そういう子どもたちを数多くみるうちに、お笑いを楽しんでもらうという本来の目的のほかにも、『笑い』をとおして何か提供できるのではないかと感じるようになったのです」(宮島さん)
その思いを、同社の井上貴弘社長に伝えたところ、社長も同じような思いをもっていることを知った。井上社長は米国留学の経験から、日本人が大事な場面で積極的に発言しないことが気になっていたという。また、所属する人気子役の母親が、もともと人前で話すことが苦手だったわが子に、それを克服してもらうためにタレントスクールへ入れたことを知り、「笑いがコミュニケーション力を育むのではないか」と考えていたそうだ。
井上社長と宮島さんの思いが一致したことで、子ども向けのコミュニケーションプログラムづくりがスタート。ちなみに、「笑育」は「笑いが教育に役立つのでは」と考えた井上社長が、以前から考案していた名称だという。
その後、知り合いの先生にお願いして大阪市の小学校でテスト的に「笑育」を実施してもらったところ、「授業中の発言が増えた」といった効果が現れた。それが口コミで広がり、ほかの小学校にも出前授業をするようになっていったという。

▲「笑育」のロゴマーク

▲「笑育」のロゴマーク

■「お笑い」×「教育学」の相乗効果
こうして、試行錯誤しながらも内容をブラッシュアップし、次第に実施数を増やしていった子ども向けの「笑育」だったが、悩みもあった。
「芸能プロダクションが、ただお笑いを使って学校で出前授業をやっているというのでは、エンターテインメントで終わってしまいます。そうではなく、きちんとした教育プログラムにするにはどうすればいいのか悩んでいました。笑いが教育に役立つことは実感できていましたが、それを裏づける学術的な理論の必要性を感じていました」(宮島さん)
一方、井上社長は各地での講演時に「笑育」プログラムの内容と、専門家にも協力してほしいという考えを語っていた。その講演を聞いたある大学教員が、当時同僚だった井藤さんにその話を伝えたそうだ。
教育哲学を専門とする井藤さんは、とくにお笑い好きというわけではなかったが、シュタイナー教育の理論に「教育とユーモア」が登場することもあり、笑いのもつ可能性に関心があった。「これまで理論研究を通じて考えてきたことを、実践できる機会ではないか」と思ったという。そこで、2015年1月から「笑育」プログラムの企画・開発に参加するようになった。
井藤さんがまず実施したのが、芸人へのインタビューである。
「こちらでつくったプログラムを芸人の方に提供するのではなく、芸人さんたちの話をきちんと聞いて、そこから教育の素材となるものを引き出せないかと考えました。プログラムとして提供するときに、芸人さんの生の声を手がかりとして授業づくりを行ったほうが、説得力が出ると思ったのです」(井藤さん)
インタビューしたのは、主に、ある程度実績のある若手芸人20組以上。「仕事とどう向き合っているのか」、「ネタづくりはどうしているのか」など、1組あたり30分〜1時間ほど聞き込んだ。若手芸人を対象としたのは、芸を完成させているベテランより、「どうしたらウケるか」、「どうやったら自分の個性を発揮できるか」と日々模索している途上にあり、そこから出てくる言葉は、一般の人にも参考になるのではと考えたからだ。
インタビューの内容には、教育学の手法と結びつけられるものがいくつもあった。たとえば、「自分の個性をどう発見したか」という質問に対し、ある芸人は、「飲み会で先輩芸人さんにイジってもらったことで、自分の面白いところを発見できた。自分のことは自分がよくわかっているのではなく、むしろ人から引き出された」と答えたという。この話を聞いたとき、「ジョハリの窓」に通じるものがあると井藤さんは感じたという。

■理系大学生が2カ月で変身
宮島さんと井藤さんがめざしたのは、大人向けの「笑育」プログラムの開発である。そのため、納得感が得られるよう、お笑いと教育をつなぎあわせ、理論の裏づけをとっていった。そして、まずは今年5~7月までの全9回(各90分)で、井藤さんが所属する東京理科大学の学生に対して実施することになった。
「自称コミュニケーションが苦手な人」を募集したところ、40人ほどの応募があった。そのうち、全プログラムに出席できる学生20人を選抜。参加は手上げ制で単位がつかないにもかかわらず、20人も集まったことからも、コミュニケーションに悩む人が多いことがうかがえる。
1回目のプログラムは、「名前だけでも覚えて帰ってください」というもの。その後、さまざまな芸人を講師に、モノマネ術や漫才づくり、1枚のイラストから物語をつくるプログラムなどを実施した。コミュニケーションが苦手な人たちが集まっていることもあり、最初は宮島さんたちが挨拶しても返さない学生がほとんどだったという。
「学生には毎回、バンジージャンプを飛ぶような心持ちで参加してもらいました。そうすると、だんだん腹をくくって自主的に取り組むようになります。大学生向けの『笑育』のねらいは、自分のなかにプレゼンテーションができる自分、コミュニケーションができる自分をつくること。つまり、『できる自分』のモノマネをすること。
本当の自分はそうでなくてもいいのですが、『そうできる自分』をつくることで、引き出しが増えます。そうすれば、たとえば就職活動の面接で明るい自分を演じられるなど、必要なときにその引き出しを開けて振る舞うことができるようになります。新しい自分に出会うということでもありますが、そのためには、まずは自分と徹底的に向き合うことが必要です。その意味では、厳しいプログラムかもしれません」(井藤さん)
これらは、子ども向けプログラムとは異なる点である。子ども向けは、「訓練することで、人前で話せるようになる」ことをめざすが、大学生や社会人はすでに人格が形成されているため、「演じることで、新しい自分を発見する」ことをねらいとしている。
毎回提出してもらったアンケートには、最初のころは「苦しい」、「きつい」といったネガティブな言葉が並んだ。しかし、ある段階から「人前に立つことが気持ちよくなってきた」といった前向きなコメントが増えていったという。最終回となる9回目には、「『笑育』を受けられたことは人生の財産」、「どこに気をつければよいかという視点をもらった」といった感想が寄せられた。
回が進むごとに、自分から挨拶してきたり、話しかけてきたりする学生も増えてきた。わずか2カ月間での学生の成長ぶりに、宮島さんたちも驚いたそうだ。この7月から「笑育」にかかわっている卯野さんも、「自分の学生時代に、こんなプログラムがあればよかったと感じました」と語る。

■笑いの有効性を広めていきたい
そして7月には、松竹グループの社員へ大人向けの「笑育」プログラムを実施。プログラムを終えて宮島さんは、「大きな手応えを得られたというよりも、改善点がいくつもあると感じた」と省みる。
「ただ、アンケートの結果は肯定的なものがほとんどでした。引き続き精度を上げていけば、より広い層や課題に対応しながら実施できるのではないかとも感じました。何よりも、プログラムを受けた後に『今日1日鼻歌を歌っています』という感想が寄せられたように、笑いの良いところをしっかり感じ取ってくれたことがうれしかったですね。コミュニケーションスキルを身につけてほしいのはもちろんですが、楽しく学ぶのがいちばん大事です。楽しくなければ、なかなか身につきませんから」(宮島さん)
井藤さんは、芸人が講師を務めるメリットについて次のように話す。
「参加者の感想をみると、芸人さんの立ち居振る舞いなど、プログラムで教えていないことも学んでくれています。芸人さんがもつ空気感が参加者に伝わっているわけです。そこが、『笑育』ならではの素晴らしい点でしょう。人と向き合ううえでの基本姿勢が伝わっているなど、教育的意義を実感しました」
大学生や社会人向けのプログラム開発については、「なぜこの研修をやるのかという理屈づけが必要」だとして、そこをもっと固める必要があるという課題をあげつつ、今後はよりいっそう、「漫才に含まれる要素をプログラムに反映させていきたい」(井藤さん)と希望を語る。キャラが違う2人が互いの良さを引き出し合いながらつくり上げる漫才は、価値観の違う人とも一緒にビジネスをしていかなくてはならない状況において、相手と協力的に取り組むための有効な訓練になるはずだという。
現在、子ども向けの「笑育」の出前授業は全国30校を超え、自治体にも広がりをみせている。宮島さんも井藤さんも、「これまでユーモアや笑いはあまり重視されてこなかったが、道徳教育の一環として広がっていってほしい」と、教育現場でのさらなる普及に期待する。同時に、大学や企業へのプログラム提供の拡大にも力を入れていきたいと話す。
「大人向けプログラムでは、理論的な裏づけが大事になります。芸人の能力をコミュニケーションやチームワークにも活かせるのではと思っていましたが、これまでは、それをうまく言葉や理論に落とし込めませんでした。それが、井藤先生に参加していただいたことで、いろいろとクリアになった気がします」(宮島さん)
今回、東京理科大学の学生、また、松竹の社員から出された改善点を踏まえながら、今後、さらに内容を練り上げていく予定だ。どのようなプログラムができ上がっていくか、楽しみである。


 

▼ 会社概要(2016年2月29日現在)

社名 松竹株式会社
本社 東京都中央区
設立 1920年(創業1895年)
資本金 330億1,865万円
売上高 557億2,400万円 単体
従業員数 525人 単体
事業案内 実写・アニメ・特撮映画の製作・宣伝・配給、海外製作映画の買付・宣伝・配給、劇場・シネコンの運営、歌舞伎・一般演劇の企画・製作・興行、ビル賃貸、不動産管理など
URL http://www.shochiku.co.jp/
人事部人事戦略課
課長
新行寺正明さん


 

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