事例 No.069 ミズノ 特集 経営理念を土台に組織を強くする
(企業と人材 2016年8月号)


update:2017.03.07

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

経営メッセージと各部教育からなる「全社教育」やツールで
経営理念を浸透、体現できる人材を育成

ポイント

(1)創業者精神や3つのF、経営理念からなる「ミズノDNA」を浸透させるべく、さまざまな施策を展開。

(2)毎週月曜日の朝に、10分間のビデオ放送と20分間の各部教育で構成される「全社教育」を実施。各部教育では、全社共通テーマと各部のフリーテーマで、社内講師が話をする。

(3)創業100周年の際に「MIZUNO BRAND BOOK」を作成し、創業者精神とブランドスローガンの浸透に活用。また、2016年に創業110周年を迎えるにあたり、記念ロゴマークを国内外のグループ社員・契約社員から公募。

経営理念、3つのFからなる「ミズノDNA」

世界屈指の総合スポーツ品メーカーであり、1世紀以上にわたって日本のスポーツ品産業をリードしてきた美津濃株式会社(ミズノ株式会社)。水野兄弟商会として、洋品雑貨のほか野球ボールの販売などから始まった同社は、2016年に創業110周年を迎えた。同社が手掛ける製品はほとんどすべての競技種目にわたっており、さらに現在は、スクール事業など複合的なスポーツ産業体として幅広く活動している。それらの事業の根底にあるのは、創業者・水野利八氏の「ええもん作んなはれや」という言葉と精神だ。
ちなみに、現在の全国高校野球選手権は、水野氏の「スポーツの振興とたくさんの人に野球の面白さを伝えたい」という思いから開催された、関西学生連合野球大会がはじまりである。また、いまでは一般的に使われている「カッターシャツ」や「ボストンバッグ」の名付け親でもあるなど、優れたアイデアマンでもあった。
創業以来、スポーツ振興を通じた社会貢献をミッションとし、オリンピックから地域のスポーツ大会まで、またプロ・アマを問わず、さまざまな競技大会で有形無形の支援を行うことで、スポーツ文化の発展や国民の健康づくりを支えてきた同社。海外事業も積極的に展開しており、現在、アジア・ヨーロッパ・北アメリカなどの17カ国に、生産・販売・生産管理などの拠点を有している。
同社の経営理念は、「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」。
また、ミズノ社員として求められる基本的資質、社員一人ひとりの価値観や行動の基準や指針となるものとして、「ミズノ倫理規範」と、スポーツマン精神に則った「3つのF」を定めている。3つのFの内容は次のとおりである。
(1)フェアプレー…スポーツにルールがあるのと同様、ビジネスや会社においても多くの規則やルールがある。ルールを確実に守ることがビジネスの常識であると同時に、スポーツマンシップに則ったフェアな行動を貫くことを大切にしている。
(2)フレンドシップ…ビジネスにおいて1人でできる仕事はない。良い仕事をするために、チームワークは必要不可欠。たとえライバル関係にある他社の社員であっても、同じスポーツ業界で働く仲間として尊重する気持ちをもってほしい。
(3)ファイティングスピリット…やりがいに満ちた楽しい仕事ばかりでなく、なかなか思いどおりに進まない仕事もたくさんある。そんなとき逃げ出してしまうのでなく、「どんなことがあっても目的を達成する」という強い闘争心をもつことが求められる。
これらの創業者精神、3つのFなどの価値観や行動規範、経営理念を合わせたものが、「ミズノDNA」である(図表1)。

図表1 ミズノDNAの構成要素

図表1 ミズノDNAの構成要素

なお、ここ数年、「3つのF」に加えて社員に求められるものとして掲げているのが、「自律型人材」だ。その定義は、「自ら課題を見つけて、自ら解決する」、「正しい事を正しくやり続ける」、「自分を成長させる意識を持つ」の3つである。これは、環境の変化が激しく不確定な世の中だからこそ、指示を待つのではなく、自ら考え、行動・チャレンジする人材が必要になっていることによる。
つまり、「3つのF」を体現する自律型人材こそ、ミズノが求める人材なのである。
こうした人材を育てるための基本的な考え方は、人材開発方針としてまとめられている。
その基本理念では、経営理念を具現化するために、社員一人ひとりが人格の向上と能力の開発に努め、日常業務のなかで働きがいを創出すること、教育・訓練はまず第1に自己啓発、第2にOJT、第3にO-JTによって補完すること、人材育成は各部門のラインの管理・監督者の重要な責務であること、などがあげられている。
ここで注目したいのが、「一人ひとりが人格の向上と能力の開発に努め」とあることだ。同社では、人材開発を単なる能力・スキルの向上ととらえるのではなく、フェアプレー精神やフレンドシップ精神にあふれた人格の形成という面も重視しているのである。
この点について、人事総務部部長の原琢平さんは、「創業者の水野自身が『人格』といったことを非常に大切にする人だったそうです。『利益の利より道理の理』といった言葉も社内で伝えられており、そこから当社の人材開発の考えはきています」と話す。
同社では、O-JTを次の3つのアプローチで実施している。
(1)階層別教育…社員の能力の底上げ=全社員共通の基本能力/スキルの付与を目的とする。
(2)目的別教育…経営課題への対応=個別具体的な経営課題の解決に必要な能力/スキルを特定の人に付与することを目的とする。
(3)自己研鑚支援…自ら学ぶ風土の醸成=自ら学ぶ社員を積極的にサポートすることを目的とする。
3つのアプローチ方法は、集合教育のほか、外部スクールへの派遣、各部教育、社内勉強会など多岐にわたる。これらを総合的に実施しながら、ミズノDNAを具現化できる人材の育成をめざしている。

毎週月曜日の朝30分間実施している「全社教育」

同社が創業者精神や経営理念などを伝える理念(企業DNA)教育として実施しているものの1つが、毎週月曜日の朝9時30分から10時の30分間、全社いっせいに行っている「全社教育」である。1980年代後半から行っているもので、同社では「各部教育」とも呼んでいる。
具体的には、前半の10分間は社内報ビデオ「MVC(MizunoVideoCommunication)」を放送、後半20分は職場ごとに企画・実施される各部での教育という2部構成となっている。以前はMVCと各部教育を分け、別の曜日に30分ずつ行っていたこともあるそうだが、昨年から月曜の朝に一元化し、合計30分のプログラムにまとめた。
全社教育のねらいとしては、次の4点があげられる。
(1)ミズノ社員としての共通の心構えや価値観(ミズノDNA)の浸透
(2)会社と社員のコミュニケーションの促進
(3)ミズノ社員が共通で理解しておいてほしい社内外に関する知識・情報の伝達
(4)社内講師制を活用した、「教え、教えられる」風土の醸成
(1)にあるように、創業以来受け継がれているミズノのDNAを社内に浸透させることが大きなねらいの1つだ。前述した人材開発戦略の3つのアプローチ(階層別教育・目的別教育・自己研鑚支援)のベースにあるのが理念教育であり、全社教育はその柱として位置づけられる(図表2)。

図表2 ミズノの教育概念図

図表2 ミズノの教育概念図

10分間のMVCでは、事前に録画された現社長からのメッセージのほか、各事業に関する活動報告や社内のトピックス、全社徹底事項の確認などが放送され、社員は各職場のテレビ、またはパソコンで視聴する。社長が海外に出張している際は、社員に向けてのメッセージを収録してMVCに盛り込むようにしている。最近では、社内イントラネットで視聴できるシステムを導入して、視聴率を上げる工夫もしているそうだ。
映像とはいえ、トップから肉声で会社の現状や方向性などの説明を受けることは、社員にとって自分の仕事の意義を再認識するきっかけになるとともに、組織の一体感を確固としたものにする効果もあるだろう。なお、MVCは英語版も作成しており、海外拠点でも放映されている。
その後の各部教育では、そのときに必要と思われるテーマに関する教育を各部門(支社・営業所など1部門20〜50人ほど)で実施していく。テーマは人事総務部が年度当初に基本計画を立案、それを各部に展開して、年間および月間の各部教育計画を作成し、それをもとに進めていく(図表3)。

図表3 各部教育年間スケジュール(2016年度)

図表3 各部教育年間スケジュール(2016年度)

中心となるのは、各部にいる教育リーダーだ。教育リーダーとは、自部門での教育を担当する社員のこと。上司からの任命で、任期は1年だが、継続して受けもつ社員もいる。任命されると、各部教育の企画・立案・運営などを担う。教育リーダーになるのは中堅社員で、年齢的には30代半ば以上の社員が多いという。各部門で行うオリジナル教育の企画・立案も教育リーダーが行っている。
各部教育は、全社共通のテーマのほか、月1回のフリーテーマも加えて、年間でスケジュールを組む。全社共通のテーマは、企業DNA(経営理念・創業者精神・倫理規範)教育、ブランド教育、CSR教育、ダイバーシティ教育、ハラスメント教育、環境保全教育、情報セキュリティなど幅広い。
実施にあたっては、各テーマの関係部門が共通資料を作成して各部門に配付し、それをもとに各部で選出された社内講師が話をするといった流れだ。講師の指名は、教育リーダーに一任されている。
人事総務部人材開発課課長の田中肖吾さんは、「講師は配られたレジュメをただ棒読みするのではなく、仕事に引き付けて話したり、ネットなどでテーマに合った事例を探してきてみんなに伝えたりするなど、プラスアルファを入れることでより理解してもらえるよう工夫を凝らしています」と話す。
月1回設けているフリーテーマの日は、文字どおり、各部が自由にテーマを設定して話をするというものだ。
「内容については、教育リーダーが『〜さん、今度のフリーテーマの日にこんな話をお願いできますか』と依頼したり、部門長と相談して決めたりしています。テーマが決まれば人事総務部に出してもらいますが、内容は各部に任せており、仕事と関係のない話でもいいとしています」(原さん)
フリーテーマの内容としては、高校野球100年の歴史やラグビーワールドカップ2016、アメリカの大学スポーツについてなど、事業に関連したスポーツネタから、ASEANの今後、高機能フィルム技術や正しい日本語についてなど、講師自身が関心のあるテーマで行うこともある。また、自分が受けた教育プログラムの内容をフィードバックし、部署で共有を図っているところもあるそうだ。
なかには、1年間のフリーテーマの講師のなかから、内容や話がいちばん面白かった社員を部員や部門長がMVPとして選出・表彰するといった、講師コンテストを取り入れている部署もある。そのほか、ベテラン対若手として6人ずつを選出し、マーケティングをテーマに話してもらい、部員が評価、総得点で勝ち負けを競い合った部署もあるなど、部内のコミュニケーション促進のツールとしても役立っているようだ。
講師は、大勢の前で話すことでプレゼンテーション能力などを磨く機会にもなる。また、あえて若手社員に依頼して経験を積ませるといったように、教育の場として活用しているところもある。
他部門の社員を出前講師のような形で招き、話をしてもらうという試みも活発に行われているそうで、部門間のコミュニケーションを図り連携を促進する機会にもなっているのである。

創業100周年を機に作成した「MIZUNO BRAND BOOK」

創業100周年を迎えた2006年、同社は「明日は、きっと、できる。」というブランドスローガンを制定した。それまで、経営理念はあっても、外部に向けた強いメッセージ性をもったブランドスローガンは明確なものがなかったため、定めたという。
「スローガンができたことで、とくに営業やマーケティングサイドから、会社のメッセージをお客さまに伝えやすくなったという声があがりました」(原さん)
田中さんも、「それまでは、外へ向けたブランドPRが少し弱かったかもしれません。ブランドスローガンの制定を機に、当社のメッセージを外部へどんどん発信していこうと、全社的に意識するようになったかと思います」と語る。
このブランドスローガンを普及・浸透させるためのツールとして作成したのが「MIZUNO BRAND BOOK」だ。日本語版のほか英語版、中国語版も作られた。
内容は、創業者の教えや経営理念をもとに、社員がこれからどう「ミズノブランド」をつくっていくかといったことが記されている。長い歴史をわかりやすく整理してまとめたもので、写真も豊富に掲載しており、ミズノの歩んだ1世紀の歴史を実感させる、まさにミズノDNAが詰まった1冊だ。

▲創業者精神を伝える「MIZUNO BRAND BOOK」

▲創業者精神を伝える「MIZUNOBRANDBOOK」

創業者を直接知る社員がどんどん少なくなっていくなか、創業者の業績や精神がMIZUNO BRAND BOOKを読むと身近に、そしてひしひしと感じられる。あらためて100年の歴史を振り返り、自社のDNAやブランドについて考えるのに最適のツールといえる。同社ではこの冊子を社員一人ひとりに配付するとともに、グローバルで活用し、理念教育を実施してきた。その意義は発行から10年たったいまも薄れることなく、前述の各部教育でも活用されている。
そして、今年創業110周年を迎えるにあたり、昨年秋に行ったのが、記念ロゴマークの社内公募である。これは、自社ブランドに対する意識の向上と、110年の間に培われた歴史、信頼感のPRとして行ったもの。対象は、海外拠点も含むミズノグループのすべての社員と契約社員。ミズノ本体だけでなく国内外の子会社からのものも含め、合わせて75件(国内47件、海外28件)の応募があった。
主部門の部門長などで構成するブランド開発委員会と社長で審査を行った結果、デザイン課に勤務する社員の作品が選ばれた。今年の4月からは、このロゴマークを名刺や封筒などの社内備品などに印刷し、使用している。
なお、海外拠点への理念浸透の取り組みとしては、社長が訪問した際にスタッフに集まってもらい、社長自ら経営理念や歴史、グローバルでの事業活動について説明している。新しく入ってきたスタッフに対しては、各海外子会社の人事担当者がオリエンテーションなどの場で理念教育を行っている。その際も、MIZUNOBRANDBOOKや歴史をまとめたヒストリー資料などが活用されているという。

今後は海外拠点でも理念の伝道師を育成したい

近年、理念教育の重要性はいっそう増しているという同社。その背景にあるのは、中途採用者の増加、海外拠点の新設・強化、新たにミズノグループに加わる国内企業の存在などだ。組織が拡大し人材が多様化することで、ミズノ社員としてもっておいてほしい共通の価値観や考え方を共有し、仕組みとして伝える必要性が高まってきている。
「当社はもともと、経営理念に共感して入社する人が少なくありません。また、会社のことが大好きという社員が多いのも特徴で、離職率は毎年1〜2%にとどまっています。こうした数値からも、全社教育などの理念教育が、結果として組織の一体感醸成や強い組織力の形成に役立っているのではないかと思っています(」田中さん)
とくに海外の場合は、金銭的な価値以外の部分がリテンションのうえで重要視されることが多いこともあり、理念教育は効果的だという。
今後の課題は、海外子会社での理念教育の強化だ。前述のとおり、海外拠点でもMVCの放映など理念浸透の仕掛けが始まっているとはいえ、各部教育のような取り組みはまだ行われていない。MIZUNOBRANDBOOKも共有しているとはいえ、その活用の仕方については現地に任されているのが現状だ。
海外事業の比重は今後ますます高まっていくことが予想されるだけに、この課題に関しては、制度的なアプローチが求められる。
「グループ統一の理念教育のコンテンツやツール、手法などの開発を進めることで、各海外子会社で理念の伝道師となる理念教育推進者を選任し、日本本社でトレーニングを行い、各拠点で理念教育を進めてもらえるようになれば、と思っています」(原さん)
創業者の精神をいまも大切にし、そこにあった事業展開を継続的に行っていくために、日々さまざまな方法で伝える努力を続けているミズノ。日本だけでなく海外でもミズノDNAが浸透し、共通の価値観のもと、これまで以上に一体となって事業を展開していく日も近いのではないだろうか。

(取材・文/北井弘)


 

▼ 会社概要

社名 美津濃株式会社(ミズノ株式会社)
本社 大阪・東京
創業 1906年4月
資本金 261億3,700万円
売上高 1,961億円(2015年度)
従業員数 5,568人(2016年3月31日現在)
平均年齢 43.2歳(2016年3月31日現在)
平均勤続年数 20.1年(2016年3月31日現在)
事業案内 スポーツ用品の製造・卸売・販売および各種スクール事業
URL http://www.mizuno.co.jp/
(左)
人事総務部
人材開発課
課長
田中肖吾さん
(右)
人事総務部
部長
原 琢平さん


 

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