事例 No.041 スマイルズ 特集 元気な中小企業の教育施策
(企業と人材 2015年12月号)


update:2016.08.17

記事の内容およびデータは掲載当時のものです。

「全員社長会議」や「経営道場」などのユニークな制度で
社員の挑戦を促し、新事業を50生み出すことをめざす

ポイント

(1)「新事業を50生み出す」をコンセプトに掲げ、新規事業準備室、ベンチャー推進室を創設。プロデューサー人材の育成をめざす。

(2)社員全員が社長になったつもりで社会や会社について考える「全員社長会議」を実施。自分のやりたいことと、その実現方法を企画提案してもらう。

(3)新入社員が経営層に2週間弟子入りする「経営道場」や、「ファミリー制度」、「交換留職」などのユニークな育成制度を実施。

50の新事業をめざしてプロデューサーを育成

自分たちが売りたいもの、ワクワクするもので、世の中の体温をあげたい。そんな思いで日常に新しい価値を見出す事業を展開している株式会社スマイルズ。これまで、食べるスープの専門店「SoupStockTokyo」、セレクトリサイクルショップ「PASSTHEBATON」、ネクタイ専門ブランド「giraffe」などの事業を生み出してきた。
これらはいずれも、同社の理念である「生活価値の拡充」を具現化した事業であり、その根底を支えているのが、(1)低投資高感度、(2)誠実、(3)作品性、(4)主体性、(5)賞賛という「5感」である。
近年は、この価値観を基本としながらも、事業や人材に対する新しい取り組みもはじめている。経営企画本部長の田原研児さんは、次のように話す。
「2014年1月ごろから、次に進むために会社のめざす方向性をあらためて確認し、再定義することをはじめました。いまある事業はすべて“ビジネスにおける作品”です。当社はそうした作品づくりができるメンバーが集まっている会社ですが、より挑戦を促す意味を込めて、『新事業を50生み出す』をコンセプトとして掲げたのです」
そこには、「100人の会社1社よりも、2人の会社が50社集まったほうが、同じ人数でも、情熱があふれ、会社の考えも伝わるのではないか」という考えもあった。いわば、「小さな惑星がたくさん集まって、エネルギーを生みだしていくイメージ」で、スモールカンパニーをつくり、周りと手を組んで解決しながら活動していくのが、「スマイルズらしい」あり方だと定義したのだ。
「新事業を50生み出す」というコンセプトは、社員のワクワク感を高めた。社内ではこれを「生態系」と表現しているそうだが、「いずれは社外へも広げて、社内・社外の人たちと一緒に、『世の中の体温をあげる』ための生態系づくりをしていきたい」と田原さんは語る。
これにより、めざす人物像も変わってきている。田原さんは「サービスのプロからプロデューサーへ」と表現し、次のように語る。
「これまでは、会社や自分の価値観を大切にしながら、お客さまにおもてなしを提供するサービスのプロを育てていましたが、それに加えてこれからは、新たな価値を生み出すプロデューサーが必要です。そうした人材を育て、その人たちが中心となって、事業を支える専門家を引っ張っていく。それが、新事業を50つくることにつながるのではないかと考えています」
この背景には、社員傾向の変化もある。これまでは、SoupStockTokyoが大好きで「店長になりたい」と入社してくる人が多かった。しかし最近は、「さまざまな方法で『世の中の体温をあげたい』」という人が増えており、その「やりたい」という思いに応えたいと考えたのだ。

ベンチャー推進室を新設し、挑戦しやすい環境を提供

50の新事業をめざして、2014年6月に新しく設立されたのが、新規事業準備室とベンチャー推進室だ。これは、「自分らしさ」を出して起業したい人を応援するための部署だ。事業計画の作成等はベンチャー推進室などが中心となってサポートし、経理等の具体的な部分については総務部や経理部が支援する。
部署ができてすぐ、「自分で店を立ち上げたい」と1人の社員が相談に来て、その2カ月後にはバーをオープンさせている。その社員は、こういう日がくると考え、事業構想を練り、資金を貯め、物件も探していたそうだ。バーには同社も出資しており、バックオフィスもサポートしている。
「安定した会社員という立場を維持しつつ起業するのを、甘いと考える人もいるかもしれません。でも私たちは、やりたいことを思いっきりやれる環境をつくりたかったのです」と田原さんは語る。さらにその2カ月後には、別の社員からアイデアが持ち込まれ、こちらも間もなくスタートする予定だ。
このような事例が出てきたことで「、私もやってみようかな」という雰囲気が社内に出てきた。これまでも社長の遠山正道氏をはじめ「やりたいことがあればどんどんやっていい」と伝えていたそうだが、ベンチャー推進室ができたことで、手をあげやすくなったのだ。
しかし、新規事業創出には優秀な人材の流出という課題もある。
「優秀な人材が独立して当社から完全に離れてしまうのではなく、同じ会社のように別の会社で働くイメージです。リソースを割けるわけではありませんが、いつでも相談できる環境をつくりたいと思っています。自分の夢を認めてくれる会社だからこそ、独立後も集まってくる。そういう会社をめざしています」(田原さん)
つまり、人を「どう集めるか」ではなく、人が自然と「集まる会社」にしたいということだ。これは、同社の採用ポリシーでもある。教育に関しても、「成長させる」のではなく、「学びたい」と思わせる動機づけを大切にしている。
「人は好きなことは勝手に学びます。ですから『やりたい』という気持ちになってもらうことが一番大事なのです」(田原さん)

「全員社長会議」で主体性を高める

「やりたい」、「学びたい」という気持ちを喚起するための仕掛けとして、同社が行っている代表例が「全員社長会議」である。
全員社長会議は、これまで年1回行っていた社員旅行やレクリエーションをアレンジしたもので、2014年10月に八ヶ岳で1泊2日の合宿研修として開催。全社員対象だが、一度に集まるのは難しいため、社員約250人を3チームに分けて実施した。
実施の背景には、5感の1つにもある「主体性」を高める意図があった。人事総務部副部長の菱沼史宙さんは、全員社長会議のねらいを次のように話す。
「会社のことを自分事にするのはなかなか難しいのですが、立場が社長であれば、そうもいっていられません。全員社長会議では、社会や組織から与えられるものを待つのではなく、自分だったらどうするかという頭で、自分が社長になったつもりで会社のことを考えてもらいました」
参加者には事前に、「あなたが社長だったら世の中をどうしたいか」、「自分の会社をどうしたいか」という2つの問いを出した。
会議ではまず、参加者である「社長」がやりたいことを表明。ほかのメンバーがよかったと思うアイデアに「いいねシール」を貼り、シールが多かった社長が皆の前でプレゼンテーションを行う。そのなかから8案を選び、どう実現していくかを皆で話し合い、ブラッシュアップしていくのだ。
会議全体で、250人の社長が250の案を出したことになる。会議をとおして、最初は自信がなかった自分のアイデアに皆がいいねシールを貼ってくれたことで自信をもったり、大勢の前で話すことが苦手だった社員が自分の意見を堂々と話せるようになったりといった変化が表れていた。
「皆でアイデアを磨き上げていく過程をとおして、自分だけで考えるのではなく、仲間と一緒に考えることの大切さが学べます。同時に、『自分がいつかやりたいと思っていたことは、こうすれば形になる』とわかり、さらに、『自分はこうしたい』と自ら進んでやる意識も出てきます」(菱沼さん)
提案内容は、新事業だけでなく新しい社内制度でもよい。いいねシールが最も多かったのは、SoupStockTokyoの店長が提案した、1カ月間の有給休暇が取得できるフリーバカンス制度である。この案には、遠山社長もいいねシールを貼った。現在は実現に向けて、社内のさまざまな環境を整備中だ。
選ばれた提案すべてを実現していくわけではないが、提案者の熱い思いがあり、会社の理念にも合致した未来を見据えたものであれば、事業化の可能性は高い。
「全員社長会議は、新規事業のつくり方を学ぶというよりは、皆で主体的に、いまある問題を解決するための方法、やりたいことを実現していく過程を学ぶというのが目的です。視座を変えるという意味合いが大きく、今後は、『全員店長会議』や『全員人事部長会議』というやり方も考えられます。会議開催以降、ベンチャー推進室に提案を持ち込む社員も増えました」(田原さん)

▲全員社長会議で遠山社長と話し合う「社長」たち

▲全員社長会議で遠山社長と話し合う「社長」たち

事業提案や「経営道場」で新入社員を育成

同社は、採用から新入社員教育においても、価値観への共感に重点をおいている。
新入社員は毎年10〜20人ほどで、2015年度は19人だった。新入社員研修は内定時期からスタートする。10月1日の内定式前後に開催するイベントへの出店企画から当日の運営までのいっさいを、内定者に任せるのだ。そうすることで、ビジネスの面白さ、難しさを知ってもらい、入社までの半年間で学ぶべきことに気づいてもらう。
4月1日の入社式後は、2週間の新入社員研修を実施(図表1)。毎年、「何を目的とした研修なのか」を意識して、新入社員が主体的につくり上げていくことに主眼をおいている。基本は、前半の1週間はマナーなどの基礎を学び、後半の1週間で「やってみたい事業」を提案する。

図表1 スマイルズの新入社員研修の概要(2015年度)

図表1スマイルズの新入社員研修の概要(2015年度)

なお、昨年までは事業の提案までだったが、今年度からは実施までを研修とした。具体的には、新規事業計画をつくり、実現できるかを3泊4日の合宿で検証し、合宿終了後にテストマーケティングを行い、その結果を経営陣の前で発表する。「昼寝ビジネス」、「若者の出会いの場としての食堂ビジネス」、「子どもの夢を応援するビジネス」などの案が出たという。
ちなみに、合宿は山梨県の河口湖畔にある同社の社員別荘「zing」で行っている。zingはリノベーションした古民家で、研修や会議だけでなく、予約をすれば社員が家族や友人と宿泊することもできる。2015年の夏には、一般から参加者を募集して、食にまつわる「おいしい教室」を開催。トークショーやワークショップなどのイベントを実施した。
2週間の研修後は職場配属となるが、今年の新入社員は基本的には全員、最初はSoupStockTokyoの店舗に配属となる。例年は、3カ月後、半年後、1年後に定期研修を実施していたが、今年はその間に、経営陣に弟子入りする「経営道場」を実施した(図表2)。

図表2 新入社員育成の年間スケジュール(2015年度)

図表2新入社員育成の年間スケジュール(2015年度)

これは、新入社員一人ひとりを経営陣の「師匠」に2週間付けて、ビジネスの基礎を学んでもらうというもの。新入社員が学びたい師匠を第3希望まで出し、人事部門がマッチングを行う。遠山社長も師匠候補に入っているそうだ。お互いのスケジュールをみながら、7月ごろから順次スタートしている。
新入社員は、師匠に付いて会議に出席し議事録を書いたり、商談に同行したりする。ただし、師匠があれこれ指示してくれることはなく、自分から動かないとおいていかれる。道場中は毎日日報を書き、それに対して師匠がフィードバックも行う。
「配属後に、『自分のやりたかったことはこれだっけ?』と疑問に感じることがあるでしょう。そのようなときに、店舗から少し離れて会社をみることができる経営道場は、いい機会になったようです。本社で経営陣と一緒に仕事をしてみると、どんな仕事も、やることは地道で変わりがないとわかります。へんに頭でっかちにならずに柔軟な考えや視点を得て、店舗に戻ってからも活躍してくれているので、やってよかったと思いますし、既存社員に広げていくことも前提にしています」(菱沼さん)
そのほか、社内の人脈が広がったこともメリットとしてあげられる。新入社員からは、「上の人との圧倒的な能力の差を感じた」、「まずは自分がやるべきことをきちんとやらないといけないとあらためて感じた」といった感想が出るなど好評だ。経営陣のなかには、最初は消極的な人もいたが、そういう人ほど、実際に弟子ができると手をかけて育てていたそうだ。
そのほか、食に関する研修も実施している。たとえば、調理に8時間かかるSoupStockTokyoの看板商品「オマール海老のビスク」を、本社内にあるテストキッチンで新入社員全員でつくり、その後、工場を見学する「オマールファクトリー」プログラム。また、材料の産地に行って農業を体験するプログラムも実施している。これらにより、自分たちが扱う商品が、どこでできてどのように加工されているのかを知り、お客さまにもきちんと語れるようになるという。

ファミリー制度や交換留職などの育成制度を実施

同社にはほかにも、人を育てるためのユニークな制度がある。その1つが「ファミリー制度」だ。
これは、社員5〜7人を1つの「家族」とみなし、1年間プロジェクトに取り組み、コミュニケーションを促進するというもの。家族分けや取組内容は毎年変えており、昨年度は、新入社員が出した新規事業の提案について、サポートしたい先輩社員を募り、5〜6人の家族をつくって活動した。
今年度は、会社の一体感を醸成したいとの思いから、社員全員を1つの家族として、「食卓会議」を毎月1回開催している。父となる経営陣と母となるメンバーが、テストキッチンで夜の食卓(料理)を作って、家族(社員)に提供するというものだ。
「店舗が日本各地に広がって、社員数が増えていくと、皆で集まる時間をもつことが難しくなってきました。そこを強めるために、ファミリー制度などを活用しています」(田原さん)
一方で、いくら会社が場をつくっても、距離や時間の関係で参加できない社員もいる。そこで今後は、iPhoneを全員に支給してビデオ会議で交流するなどのやり方を検討中だ。
そのほか、定期的に開催している「ワークショップ」もある。これは事業部が行っている社内塾のようなもので、経理主催でPL(損益計算書)の読み方を学んだり、人事主催でキャリアについて学んだりしている。先に述べた社員別荘「zing」を活用した、事業部ごとの合宿研修も実施されている。
2008年にスタートした「交換留職」も、特色ある制度だ。これは他社との間で社員を交換するというもので、他社で働く機会を提供することで視野を広げてもらうのがねらいだ。これまでに5社と、数週間〜数カ月の期間で実施した。
「交換留職には、大手企業やベンチャー企業からの問い合わせもきています。他社と求めるものや条件などをすり合わせるのが難しいのですが、多様な事業や価値をつくっていくためには交換留職のような取り組みが必要です。今後も、交換できる企業を開拓していきたいと思っています(」菱沼さん)

学びをシェアできる仕組みづくりをめざす

同社は今後、中堅社員への育成にも力を入れていきたいという。「スマイルズアカデミー」を設立する構想もある。他の中小企業などにも声をかけて、社内外の人の力を借りながら“学べるコンテンツ”をシェアしていく仕組みを考案中だ。
「どの企業も自社だけでコンテンツをそろえるのは難しく、多くはコストをかけて専門企業へ依頼しています。しかし、“生きた知恵”は社内にあるので、それらをシェアしていければと思っています。セミナーなどを自分たちで企画・運営し、そこに人が集まり、自分の思いが形になり、学びや出会いにつながっていく。それが、新しい事業づくりにもつながれば、最終的にその事業で世の中を温めていくことができます。そのためのプラットフォームをつくっていきたいですね」(田原さん)
さまざまな専門知識をもった人たちが集まることで、出会いが生まれ、学びが生まれる――。そんなプラットフォームづくりをめざしているそうだ。アカデミーはプロトタイプを作成中で、来年度からスタートする予定である。
ベンチャー推進室ができたことや全員社長会議などの実施により、社内の学ぶ意欲は高まっている。また、自分がやりたいことがわかったことで、能力・経験・アクション不足などの具体的な課題に直面している社員はいま、学ぶことにハングリーな状態にいる。だからこそ、その気持ちに応える研修やコンテンツ、制度を整えている最中だ。
そのためには上司のマネジメント力も重要になる。今後は管理職研修なども充実させていきたいという。それらも踏まえて、人事制度を体系的に構築していくのが、今後の人事のミッションである。
事業や人脈を広げながらも、つながりを強めるプラットフォームをめざし、人の「思い」を大事にしながら、新しい価値創造に邁進するスマイルズ。人事制度が再構築されることで、さらに新鮮な価値が生み出されていくだろう。

(取材・文/江頭紀子)


 

▼ 会社概要

社名 株式会社スマイルズ
本社 東京都目黒区
創業 2000年2月
資本金 5,000万円
売上高 84億5,300万円(2015年3月期)
従業員数 271人(2015年4月現在)
平均年齢 31.2歳(2015年11月現在)
事業案内 飲食店・小売店の経営、食料品・繊維製品・日用雑貨の企画・製造・販売、各種イベントの企画・運営・管理など
URL http://www.smiles.co.jp/
(左)
経営企画本部長
田原研児さん
(右)
人事総務部副部長
菱沼史宙さん


 

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