分岐点
(私のターニングポイント)
桜井なおみ
 キャンサーソリューションズ 代表取締役社長/
 NPO 法人 HOPE ブロジェクト理事長


update:2014.05.16

この記事は「企業と人材」2014年1月号に掲載されました。

2004(平成16)年

 私の人生の分岐点、ターニングボイントになった年は 2004 年です。
 その出来事はがんの診断、37 歳になったばかりのことでした。「30代でがんになるの?」、「なんで私が?」、「何でこのタイミングで?」怒りや悲しみ、不安など、心には大きな波風が立ちました。
 その一方で「仕事の引き継ぎをどうしよう」、「お金はいくらかかるのだろう」、「親になんていおう」、そんな小さな心配ごとも頭に浮かびました。
 2004 年までの私は、とにかく仕事に夢中な毎日を送っていました。毎朝9時に出社、残業は当たり前どころか、会社に泊り込むこともありました。週に一度は飛行機にのって日本中を飛び回り、充実した日々を過ごしていました。健康には自信がありましたし、このような毎日が永遠に続くかもしれないと信じ込んでいました。「人生を傲慢に生きていた」、振り返ってそう思います。
 突然やってきた病の宣告に、私は、足元を掬われました。
 初めての手術、初めての入院、初めての抗がん剤治療……いままで知らなかった医療という世界に初めて接し、「健康で長く生きる」ことを目標とし、善とする社会や人生観に疑問を持ちました。「日本の社会保障・福祉制度はなぜこんなにいびつなのだろう?」そんな疑問を抱きました。そして、「がん」という病がもつ社会の認識と現実とのズレ。自分のなかのスティグマと社会のスティグマ。私は壁と壁の間にすっぼりとはまり込みました。しかし、現実は変えられません。すべてを受け入れるしかない。失ったものばかりを見ていても前には進むことはできず、心は苦しくなるばかり。
 そのとき、物事をちょっと違う角度から見ると新しい光が生まれるということに 私は気がつきました。病気にならなけれ ば決して巡り合わなかった人、社会、思想、哲学、言葉、日常生活の有難さ、家族の大切さ……。「有難い」という言葉は、本当に「有り」「難い」のだということに気がついてから、私の人生は一変しました。
 キャンサーギフトという言葉があります。病気になることで新しく得た価値観や仲間、人生への贈り物のことです。私にとってのキャンサーギフト(病がくれた贈り物)は何なのか? 私はいまもそれを探し続けています。そして、小さな 幸せを感じながら、毎日を丁寧に生きて いきたい。そう考えています。

●プロフィール
桜井なおみ
キャンサーソリューションズ 代表取締役社長/NPO 法人 HOPE ブロジェクト理事長
1967年東京生まれ。技術士(建設部門)。大学卒業後、都市計画事業や環境教育などのまちづくり、ひとづくりに長年従事。2004年に乳がん罹患後は働き盛りで罹患した自ら のがん経験や社会経験から、小児がんを含めたがん経験者・家族の支援活 動を開始、現在に至る。共著書として、『希望の言葉を贈り合おう』(静流出版)、『がんと一緒に働こう』(合同出版)など多数。
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